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徹底した顧客理解で新規事業が売れないリスクを早期に回避
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新規事業を成功に導く「正しい顧客理解」とは?
捨てるべき3つの常識と”未来の” 顧客インサイトの探り方

新規事業開発において顧客理解が重要であることは、既に多くのチームが認識しています。しかし、本当に未来の顧客インサイトを捉えられているでしょうか?「未来の顧客はこれを買ってくれるか」を知ることは、想像以上に難しい課題です。

新規事業開発における顧客理解の本質と事業開発担当者が捨てるべき3つの常識を解説し、未来のインサイトを探るための実践的な方法をご紹介します。

本記事は、弊社主催セミナー「新規事業を成功に導く『正しい顧客理解』とは?捨てるべき3つの常識と”未来の” 顧客インサイトの探り方」をもとに作成しています。

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1. なぜ『顧客理解』が重要なのか

1-1 新規事業は成功させるのが難しい

まずは、新規事業開発における顧客理解の重要性について触れておきます。

新規事業は難しいと言われますが、CBInsightsが出している統計によると、新規事業の失敗理由の1位か2位に「No market needs」が必ず入ります。

これは日本語にすると、「顧客が欲しがるものを見つけられなかった」という意味合いになります。統計の対象になっているのは、海外のスタートアップです。海外ではデザイン志向やUXデザイン、リーンスタートアップといった考え方が浸透しており、顧客の声を十分に聞いているにも関わらず、この罠にはまってしまっているということがわかります。

今回はこの顧客理解の話をするにあたり、「No market needs」の中身を少し見ていきましょう。

「No market needs」は、プロダクトにつながるアイデアの前提である『問い』が間違っていることによって起こります。

『問い』とは「誰にどんな喜びを届けるのか」、言い換えると「解決しようとしている課題」と「提供しようとしている価値」の組み合わせです。この組み合わせが間違っていることで、「No market needs」が発生します。

つまり、新規事業の大半は、解決策が間違っていた、デザインが良くなかった、マーケティングが失敗したというよりも、『問い』の間違いにより失敗しているケースが多く、「正しい『問い』を見つけること」が、新規事業最大のハードルだと言えます。

『問い』を正しく定義するためには顧客理解が欠かせません。なぜなら、皆さんの事業アイデアによって提供されたものに価値があるかどうかを判断するのは、顧客自身だからです。顧客理解をもとに正しい『問い』を見つけることで、「No market needs」を回避し、売れないリスクを避けられるという考え方の順序になります。

ここまでの考え方は、ある程度ご理解いただけると思いますが、次にその考え方に基づいて設計されたアイデア創出プロセスについてお話しします。

1-2 アイデア創出プロセス

アイデア創出のプロセスの最初はアイデアの種を見つけるところから、プロダクト開発に入る手前までを描いています。基本的にどのフェーズでも顧客との対話を重視しています。

Phase 1では生活者は何に悩んでいるのか、Phase 2では誰にどんな喜びをどう提供すればいいのか、Phase 3ではお金を払うほどの価値を感じてくれるかどうか、に答えていくプロセスです。これはリーンスタートアップも同様のプロセスで、多くの事業開発チームが取り入れています。

顧客理解が重要だという考え方は理解できますし、プロセスも手に入れた後は実行するだけですが、これがそんなに簡単ではなく、多くの会社が実行の段階でつまずいています。これには様々な理由がありますが、よくあるものを3つ挙げます。

Phase1(現場におもむき、 生活者を理解する)でつまづくポイント

  • 誰に、何を、どの深さまで聞けば良いのかわからず、手探りで質問をぶつけている。
  • 顧客を理解する目的が明確に定まっていない。 

Phase2(アイデアを発想し、 『問い』を探索する)でつまづくポイント

  • 顧客からいくつか印象的な言葉はもらえたが、鵜呑みにして良いものか。
  • チーム内でも解釈がぶれる。本質的なニーズを見逃しているのではないかと不安になる。

Phase3(体験を再現し、 価値を証明する)でつまづくポイント

  • 何らかの事情で顧客に会えない。ハードルが高く何度も会えない。
  • 結果として、経営層やコンサルタントなど、顧客ではない人の話を重視しがち。

次にこの問題にどのように対処していけばよいのかについて見てきましょう。

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2. 新規事業の顧客理解において、捨てるべき3つの常識とは

新規事業開発における顧客理解のポイントを3つに絞ってお伝えします。

2-1 ポイント1:顧客の未来を予測しようとしてはいけない

まず1つ目は「顧客の未来を予測しようとしてはいけない」ということです。

新規事業を成功させるために知りたいのは、未来の顧客がそれを買ってくれるかどうかですが、それを知るためには、その顧客に現在起きていることを探るだけではなく、未来における顧客の実際の行動を探る必要があります。

目の前の顧客に「未来のあなたはそれを欲しいと思いますか」と聞いて、たとえ好意的な意見をくれる人がいたとしても、その9割は実際には買ってはくれません。現在の意見と未来の行動は基本的にずれるため、この質問から得られる学びは少ないです。

このずれの原因は、顧客に未来の自分を予測させることにありますが、それは非常に難しいためほとんどの予測は当たりません。

では、どうすればいいかというと、未来を予測してもらうのではなく、未来を今体験してもらうことが必要です。これにより、アイデアが実現した時の顧客の行動を、「今」、確認することができるようになります。

この考え方に基づいて、私たちがよく使っているフレームワークの1つが「ストーリーボード」です。

ストーリーボードは、事業開発の最初から、またローンチ後の段階でも使える定番のフレームワークで、非常に使い勝手が良いです。高い精度で新規事業の最大の失敗リスク「No market needs」を可視化・最小化できるため、全ての事業開発チームにおすすめしています。

次に、もう1つのフレームワークについてお話しします。「未来を予測してもらうのではなく、体験してもらう」というフレームワークのもう1つが「MVP(Minimum Viable Product)」です。

これは、本物のプロダクトを作ることなく、本物の価値を体験してもらうという手法です。

この手法はリーンスタートアップの一環としてよく知られています。プロダクト開発に入る前に使われることが多く、売れるかどうかの不確実性を最小化するために有用です。

いくつか実例をご紹介します。

イラスト学習サービス

弊社が支援しているイラスト教室を運営されている会社によるオンラインコミュニティの検証です。自宅で絵を書く習慣を身につけるためのオンライン自習室を作り、作業風景をシェアできる空間を提供するというアイデアを検証したケースです。

この時に用意したのはパワーポイントで作成したチラシとGoogle MeetのURLだけで、既存のプロダクトを使ってコンセプトを検証しました。

不動産営業向けの支援ツール

こちらは、某不動産関連のポータルを所有している会社様によるBtoBの新規事業の営業支援ツールの例です。
この会社は、所属する成績優秀な営業の方から抽出したノウハウを営業支援ツールに落とし込み、タブレットに入れて活用することによって、一般的な営業を行っている方も売り上げが上がるのかどうかという検証を行いました。かたちのあるプロダクトは一切作らず、成績優秀な営業の方のノウハウを再現したツールで営業活動を行ったという例になります。そして、その結果一定の効果が確認できました。


これらの例は、MVPの考え方に基づいて、いきなり開発に入るのではなく、リスクを可視化し、価値を提供しています。ただ、MVPは「最小限の価値を提供するプロダクト」を作ることが求められますが、ミニマムとは、言い難い場合も多くあります。 検証すべき最重要な価値を特定することは難しく、それを検証するための最小限の方法を決めることはさらに難しいので、しっかり検討することが重要です。

2-2 ポイント2:インサイトを聞き出そうとしてはいけない

「インサイトを聞き出そうとしてはいけない」というのが2つ目のポイントです。

新規事業を成功させるために知りたいのは、顧客がなぜこれを買ってくれるのか、その理由としてのインサイトです。では、正しい相手に正しい質問をすればインサイトを引き出すことは可能なのでしょうか?

これに答えるためには、インサイトの性質を理解する必要があります。

インサイトを引き出す難しさ

インサイトとは「人を動かす隠れた心理」とも言われ、本人が自覚していない潜在的な心理を指します。インサイトには3つの特徴があります。

  • 特徴 1. インサイトは潜在的である
    顧客は、自身の潜在的な心理を自覚していません。
    そのため、直接的に質問をしても、正確な答えを得ることはできません。
  • 特徴 2. インサイトは簡単に説明できない
    自身の何らかの心理に気づいたとしても、それを明確に言語化することは多くの人にとって困難です。
    言葉にしやすい理由や感情が語られますが、それが本質を表しているとは限りません。
  • 特徴 3. インサイトは行動に現れる
    顧客が特定の行動をとった瞬間にインサイトは現れ、そして一瞬のうちに消えてしまいます。
    行動を伴わないインタビューでインサイトを観測することはできません。

これらの特徴を見ると、インサイトを捉えるのは非常に難しそうですが、重要なのはインタビューの後にしっかり分析することです。

まずインタビューを行い、発言や行動をそのまま受け取るのではなく、違和感や矛盾に気づきながら、発言の意味をしっかり解釈します。

たとえば、本人が語る理由が矛盾している、同じ話を繰り返す、予想外のことを言う、漠然とした表現しかできない、沈黙が続く、非言語的なサインが出るなど、何かがあると感じる瞬間に注意します。

しかし、1つのインタビューだけで確定的な結論を出すのは難しいため、複数のインタビュー結果の共通点や違いを比較すると、背後にどのような心理があるのかが分かります。

ここで、1つの例を紹介します。

事例

弊社がご支援したコクヨ株式会社様が、子供の家庭学習を支援するIoT文具のアイデアを検討していた事例です。

ターゲットは、宿題をしない子供にガミガミ言ってしまう母親でした。母親の力を借りずに子供が自発的に勉強できるようにするIoT文具を考えたところ、インタビューでの反応は期待していたよりも微妙な反応が返ってきました。

インタビューでの発言を分析することで、親子関係が変わることへの懸念や、親の役割が変わることへの抵抗感、さらには子供の自立心に悪影響があるのではないかという不安が、共通した強い心理として浮かび上がりました。

最終的に、親としての重要な役割を奪われることへの抵抗感や、他のツールに任せることへの罪悪感があるのではないかという仮説が導き出されました。この仮説は後に実証されましたが、インサイトは個々の顧客の発言からではなく、分析によって気づかれるものだという良い例です。

2-3.ポイント3:何人に会えば良いのかという考え方を捨てる

3つ目のポイントは、「何人に会えばいいのか」ということです。新規事業を進める上で顧客との対話が重要だということはよく言われますが、何人と話せばいいのかという疑問が生まれるのは自然なことです。しかし、この「何人」という考え方はあまり適していません。なぜなら、必要な人数はケースによって異なるからです。

新規事業アイデアの仮説検証は、顧客との対話を中心に進みますが、フェーズごとに必要な対象者の条件が変わります。

仮説検証フェーズ

  • 初期:生活者を理解する
    初期フェーズでは、対象とした領域にいる生活者の現状を理解することを目的に検証を行いますが、この時はまだターゲットがぼんやりとしか見えていないので、対象者の条件が抽象的です。まずは広範囲な条件で人を集め、徐々に絞り込んでいくというプロセスを繰り返します。
  • 中期:『問い』を探索する
    中期に入ると、解決すべき課題が見つかった段階なので、その課題に共感する人、つまりターゲットに話を聞くフェーズに移ります。ここでは、正しい『問い』を見つけることを目的とし、条件が少し具体的になります。例えば、普段買い物でクレジットカードを使っている人からもう少し絞り込まれて、クレジットカードを使い分けてポイントを上手く貯めることに意識がある人という条件になります。
    対象者が条件にマッチしているかどうかの精度を初期に比べて求められるようになるので、相手がどのような人なのかということを事前に判断する方法がないと、うまく検証が回らなくなくなってきます。
    中期フェーズでは、正しい『問い』やそれを解くためのアイデアが見つかるまで、このプロセスを繰り返します。
  • 後期:価値を証明する
    後期フェーズでは、アイデアの価値を証明することを目的に、アイデアを買ってくれた本物の顧客と対話します。ここでは、リサーチ目的で集めた人々ではなく、市場の中から本物の顧客を見つける必要があるので難易度が上がります。このフェーズでも、お金を払ってもいいと思ってもらえる価値が証明されるまで対話を続けます。

    このように、結果的に少ない人数で進むこともありますが、一方で100人を超えるようななこともあるため、「〇人に聞けばいい」といったゴールデンナンバーは存在しない領域です。人数よりも重要なことは、フェーズごとに目的があり、その目的を達成するために誰に話をするか、対象者の条件をコントロールしつつ、必要な人数にスピーディーに会えるかどうかが重要です。

仕組みを構築する

必要な時にインタビュー対象者を探す、あるいはリサーチ会社に丸投げをするのではなく、アイデアを開発することと並行して顧客に会える仕組みを開発し、構築していくことを両輪で進めていかないと事業開発は中々うまくいきません。顧客に会える仕組みを開発することで、仮説検証サイクルのスピードが一気に上がり、事業開発の成功の確率を上げることに繋がります。

3. まとめ

新規事業を成功させるには、顧客理解が不可欠です。顧客が本当に求めているものを見極め、「解決しようとしている課題」と「提供しようとしている価値」の組み合わせの『問い』見つけることで、売れないリスクを避けることができます。

顧客の行動や潜在的な心理を観察してインサイトを導き出し、仮説を検証することは重要ですが、仮説はあくまでも仮説なので、顧客との対話を通じてその心理が本当にあるのかを確認する必要があります。仮説検証フェーズの目的に合った顧客と対話ができる仕組みを構築し、「顧客理解」を深め、新規事業の成功へ繋げましょう。

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監修者

喜多 竜二

えそら合同会社 代表社員/HCD-Net認定人間中心設計専門家

2009年にUXデザインコンサルティングを専門とする「えそら合同会社」を設立、これまでに新規事業をはじめとする100を超える事業を支援してきた。自身は行動観察をはじめとするエスノグラフィを専門とし、生活者に対する共感を出発点としたユニークなアイデア発想の場づくりや、UXデザインの組織導入に力を入れている。東京大学工学部卒業、シドニー工科大学大学院修了。

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