UXという言葉が、Web業界やスタートアップ界隈をはじめとして、様々なところで聞かれるようになって4〜5年が経過しました。皆さんは、UIとUXの違い、きちんと理解できていますか?また、その違いを理解することの重要性を、上司やまわりの同僚に説明できていますか?
本日は、これまでに幾度となく議論されてきたUIとUXの違いを、自分以外の第三者に理解してもらうにはどうすれば良いかという視点で、改めて考えます。
この記事を読んでいただければ、難しい話は抜きにして、「UIとUXは何が違うのか」「なぜこの違いを理解しなければならないのか」を、まわりの人たちにわかりやすく説明できるようになるでしょう。
目次
まずはUIとUXの違いを直感的に理解しよう
一言でいえば、UIは「ユーザーとの接点」、UXは「ユーザーの体験」を意味します。ここでは、例を見ながら、UIとUXの違いを直感的に理解してみましょう。
「新聞」におけるUIとUXの違い
新聞におけるUIは「紙面」という接点であり、UXは「毎日最新の情報が届く」という体験です。
「カレンダーアプリ」におけるUIとUXの違い
カレンダーアプリにおけるUIは「スマホアプリ」という接点であり、UXは「予定を思い出させてくれる」という体験です。
「タクシー」におけるUIとUXの違い
タクシーにおけるUIは「車」という接点であり、UXは「好きな所に移動できる」という体験です。
結局、UIとUXは何が違うのか
UXをデザインするにあたり、UXとUIの違いをよく理解しておく必要があります。それぞれの特徴を見てみましょう。
手段としてのUI(ユーザーとの接点)
「もうこんな時間か。今晩はピザでも取って、ゆっくりビール飲みたいなあ。よし、帰宅時間にあわせてアプリで宅配ピザを頼んでおくか!」
UIは何かしらの目的のために使われる「手段」だと捉えるとわかりやすいでしょう。上の例で言えば、「ピザを食べるという目的」を達成するために、「アプリというUI(つまり手段)」を使って、必要な情報や機能を入手しています。
一つの目的を達成するために、複数のUIが出てくることもあります。例えば、「宅配ピザのチラシを見て、電話をかけて注文する」といった場面においては、チラシも電話もUIになりますし、「電話をするのが面倒だからサイトで注文するか」となれば、今度はWebサイトが電話に代わるUIになります。
なお、UIというとどうしても「画面」をイメージしてしまいますが、製品、人、場所なども目的達成のために使われる手段と考えられ、同じ役割を果たすので、言葉としては「接点」くらいの表現でイメージしておくと良いでしょう。
- UIは何かしらの目的達成のために、必要な情報や機能を伝える手段である
- 一つの目的を達成するために、複数のUIが連続して、あるいは選択肢として出てくることがある
- UIは画面だけでなく、製品、人、場所などを含む接点としてイメージしておこう
結果としてのUX(ユーザーの体験)
「やっぱり、金曜日の夜はピザとビールだね!アプリを使って会社で注文しておけば、待たなくてもすむし。一人でピザを食べるのは少し寂しい気もするけど…。まぁ気にしない!」
UXは体験の結果として起きる感情を含むものです。つまり、うれしい気持ちになれた体験は良いUX、イヤな気持ちになってしまった体験は残念なUXといった具合に、良し悪しが存在します。
では、良いUXかどうかは何によって決まるのでしょうか?
上の例にある「待たなくてもすむ」という良いUXは、スマホアプリというUIが持つ特長(場所を問わず、どこでも使えるという携帯性)が一つの要因になっていると言えそうです。しかし、良いUXを生み出している要因はそれだけではありません。
上の例で示したUXの本質的な価値を生み出しているのは、「指定された時間にあわせて、できたてのピザを配達できる」というオペレーションの仕組みそのものであり、これはUIとは異なる次元の話です。UIはUXの価値をより高めてくれたり、伝えやすくしたりしてくれる重要な媒体ではありますが、多くの場合、それ自体が本質的な価値を生んでいるわけではないということは理解しておきましょう。
- UXは体験の結果として起きる感情を含むもので、良し悪しが存在する
- UXの本質的な価値を生み出しているのは、UIとは別次元の仕組みであることが多い
- UIはUXの価値を伝えるための媒体で、多くの場合、UIそのものが価値を生んでいるわけではない
UIとUXとUI/UXの違いについて
「UI/UX」という言葉もよく目にすると思います。あくまで私の見解ということにはなりますが、せっかくの機会ですから、ここできっちりと整理しておきましょう。
UXデザインでは、UXを体験、行動、操作の3つのレイヤーに分解してデザインすることがあります。これと対比させれば、各用語が意味するところを理解しやすくなるでしょう。
UIデザインは操作のデザイン
UIそのものや、それを操作したときに起きることをデザインします。端的に言えば、ワイヤーフレームで表現できるものがUIデザインです。ただし、静的なものだけでなく、ボタンを押したときの心地よさや、トランジションなどもここに入ります。
UI/UXデザインは行動のデザイン
あるUXを実現するためにUIをどう位置付けるかをデザインし、体験の価値をどう高めるか、どう伝えるかといった課題に対する解決策を導き出します。UIの外の流れを俯瞰する必要があるので、カスタマージャーニーマップなどのツールを使うことがあります。
出典:©Adaptive Path – The Anatomy of an Experience Map
UXデザインは体験のデザイン
UXそのもの、つまり体験を通してどのような価値を提供すべきなのかをデザインします。製品やサービスのコンセプトと呼ばれるものを取り扱うのがこのレイヤーです。その価値が伝わることで世界がどう変わるのかを表現するために、ストーリーボードなどのツールを使うことがあります。
上司に伝えたいUXを考えるべき3つのポイント
UIとUXの違いを理解することは、さほど難しいことではありません。大変なのは、UIとUXの違いを理解することの重要性を、まわりの人たちにわかってもらうことでしょう。
ここではポイントを3つに絞って、私がUXを考えるべきだと思う理由を挙げてみます。
ポイント1:UIを改善しても選ばれるサービスにはならない
消費者が製品やサービスを選択するとき、多くの場合、UIの良し悪しは決定要因にはなりません。逆に、過去の歴史を振り替えると、優れたUXを提供するサービスは、初期のUIに多少の難があったとしても選ばれてきました。
製品やサービスの選択という行為は、それらを使ったときに体験できることに対する期待の現れです。売れるか、売れないかは、「いかに他社の製品やサービスでは替えのきかないUXを提供できるかにかかっている」と言っても過言ではありません。
ポイント2:UIの差別化は長続きしない
優れたUIを提供しているということで成功し続けている製品やサービスは稀です。仕組みを伴わない表面的なUIの改善や工夫は簡単に真似できてしまうため、時間が経てば差別化要因にならなくなるからです。
新しいUXを提供するためのほとんどは仕組みを伴うため、構築には労力が必要ですが、簡単には真似ができません。競合が複数存在するような市場で戦う場合、競合優位性の獲得はUXのレイヤーで行うべきです。
ポイント3:UIに囚われていると新参者に足元をすくわれる
前述のとおり、UIはUXの価値を伝えるための媒体です。これは、「UIは置き換え可能である」ということを意味しています。
「毎日最新の情報が届く」というUXを長年提供してきた新聞業界は、なぜニュースアプリの台頭を許してしまったのか。確立されたビジネスモデルを自社の力だけでリフレームすることは難しく、むしろしがらみのない新規参入組の方がうまく置き換えてしまう、といった事態が起き得るのです。
まとめ:自社の課題がどのレイヤーにあるのか見極めよう
消費者に選んでもらい、長く使い続けてもらえるような製品やサービスを生み出すためには、UIでもUI/UXでもなく、UXの視点が必要不可欠です。まずは、自社の製品やサービスの課題がどのレイヤーにあるのか、きちんと認識することから始めましょう。
UIとUXの違いをまわりに理解してもらうのに苦労している方はご相談に乗りますので、ぜひお問い合わせください。