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新規事業のアイデア発想法:成功事例・失敗事例に学ぶ具体的アプローチ

新規事業の立ち上げにおいて、最も重要な要素の一つが「アイデア」です。新規事業の成功や失敗は、アイデアの精度に大きく依存します。新規事業の失敗理由で最も多いのは「No market need(市場のニーズに合わなかった)」ことだと言われており、どんなに優れたチームや技術があっても、肝心のアイデアが的外れであれば、成功は遠のいてしまいます。

この記事では、新規事業アイデアの定義から具体例、そしてアイデア創出のアプローチを詳しく解説していきます。新規事業を成功させるために必要な “良いアイデア” を考えるヒントを探していきましょう。

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1. 新規事業アイデアとは

1-1. 新規事業アイデアの一般的な定義

新規事業アイデアとは、市場にまだ存在しない価値を提供する商品やサービスの構想、または既知・未知の課題を新しい方法で解決するためのビジネスの基盤となる構想を指します。単なる「思いつき」や「ひらめき」ではなく、実際の課題にもとづき、価値を生み出す具体的な解決策としてまとめられたものであることがポイントです。

1-2. アイデアの構成要素

新規事業アイデアは、「課題」「価値」「解決策」という3つの要素で構成されます。これらの要素を正しく組み合わせることが、良いアイデアを生む土台になります。

  • 課題: アイデアの出発点となる問題やニーズです。顧客がどのような悩みを抱えているか、どんな機会が見逃されているかを明確にすることが重要です。
  • 価値: 課題を解決することで顧客に提供できる利益や満足感を指します。顧客が感じる価値が高く、競合との差別化ができるものが理想です。
  • 解決策: 課題を解決し、価値を提供するための具体的な方法です。これには、商品やサービスの形態、提供方法、利用手順などが含まれます。

「どうすれば課題を解決し、価値を生み出すことができるか」という問いがアイデア発想の出発点であり、それに対する答えが「どんな解決策でそれを実現するか」です。多くのブレインストーミングでは、解決策ばかりに注目しがちですが、実は質の高いアイデアを生み出すには、正しい「問い」を見つけることが重要です。

1-3. なぜ、アイデアが重要なのか

新規事業の失敗理由

新規事業の一形態であるスタートアップの失敗理由を調査したCB Insightsのデータによると、101社中42%が「No Market Need(市場のニーズに合わなかった)」という理由で撤退しています。このデータは、市場ニーズを徹底的に検証することが、新規事業の成功確率を高めるうえで極めて重要であることを示唆しています。

成功は掛け算

新規事業の成功は、アイデア、チーム、実行力、タイミングといった要素の掛け算で決まります。どれほど優れた実行力やチームを持っていても、肝心のアイデアが市場のニーズに合っていなければ、掛け算の結果はゼロになります。適切なアイデアを最初に見つけることが、成功への大きな一歩となるのです。

2. 新規事業アイデアの例

新規事業のアイデアを考えるうえで、過去の成功事例や失敗事例に学ぶことは非常に有益です。成功事例からは、どのようなアイデアが市場に受け入れられたのかを知り、失敗事例からは、どのような点で市場にフィットしなかったのかを学びます。この章では、具体的な事業アイデアの成功例と失敗例を紹介し、良いアイデアの特徴を探ります。

2-1. 成功事例6選

新規事業が成功するためには、単に優れた技術や商品を提供するだけではなく、市場のニーズに応えることが求められます。ここでは、実際に成功を収めた6つの事例を見てみましょう。

Airbnb

  • 概要: 空き部屋をシェアするためのプラットフォーム
  • 成功の理由: 世界中の旅行者が宿泊費を節約しながら、ユニークな体験をできるという価値を提供しました。特に宿泊施設が不足している観光都市では、強力なソリューションとして受け入れられています。
    Airbnbは、宿泊費の節約と宿泊施設不足の解消という2つの大きなニーズに応え、観光都市で急速に受け入れられました。例えば日本では、2016年のAirbnb利用者が300万人を超え、観光客の約10%に達しています。また、ゲストの85%が「節約できた」と感じ、節約分は飲食や買い物に使われるなど、経済効果も生んでいます。
  • 成功要因: 「C2C(消費者同士の取引)モデル」を確立し、ホテル業界にない柔軟な選択肢を提供しました。レビュー機能により、利用者間の信頼性が高まりました。

Uber

  • 概要: 配車サービスアプリ
  • 成功の理由: スマホを使って簡単にタクシーを呼べる利便性を提供し、既存のタクシー業界に革新をもたらしました。
  • 成功要因: GPS技術とデータ分析を駆使し、タクシー供給と需要の効率化を実現しました。リアルタイムの位置追跡で乗客は待ち時間を把握でき、最適なルートでの移動が可能です。また、過去データを分析し、需要の高い場所へドライバーを誘導する仕組みも整備しています。これにより、効率的かつ高品質な配車サービスを提供しています。運転手が余剰時間を活用できる仕組みが市場拡大を促しました。

Dropbox

  • 概要: クラウド上のストレージサービス
  • 成功の理由: どこからでもデバイスを問わずファイルにアクセスできる便利さを提供。特に、ファイル共有の簡便さが支持されました。
  • 成功要因: 紹介者と新規ユーザーの双方にストレージを提供する「リファラルプログラム」により、15か月で3900%成長し、400万ユーザーを獲得しました。このプログラムは、簡単な紹介方法と双方向の報酬が特徴で、口コミによるユーザー拡大に大きく貢献しました。

Slack

  • 概要: チーム向けのビジネスコミュニケーションツール
  • 成功の理由: チーム内のコミュニケーションを一元管理でき、メールの煩わしさを軽減。他ツールとの統合も可能で業務効率化に貢献しました。
  • 成功要因: UXデザインを重視し、ユーザーフィードバックを活かして改善を繰り返した点。また、無料プランの提供により、全世界で約92%のユーザーが無料版を利用しており、これが新規ユーザー獲得に大きく貢献しています。また、無料版ユーザーの90%、有料顧客の98%が継続利用しており、多くがSlackの価値を体験したうえで長期的に利用を続けています。

Zoom

  • 概要: ビデオ会議アプリケーション
  • 成功の理由: シンプルで高品質なビデオ会議を提供。特にパンデミック時に、リモートワークで急速に普及しました。
  • 成功要因: Zoomは、直感的な操作性や高品質の音声・映像、ブレイクアウトルームや共同ホワイトボードなどの豊富な機能で評価されています。さらに、APIを通じた高い統合性と、セキュリティ強化への取り組みによって、TeamsやMeetとの差別化を図り、ユーザーに支持されました。

Spotify

  • 概要: 音楽ストリーミングサービス
  • 成功の理由: ユーザーは月額制で無制限に音楽を楽しめ、さらにアルゴリズムによるレコメンド機能が新しい音楽の発見を促進しました。
  • 成功要因: 違法ダウンロード問題に対し、合法的で手頃な価格の音楽提供を実現し、業界に革命をもたらしました。

2-2. 失敗事例6選

一方で、優れたアイデアのように見えても、市場に受け入れられなかった失敗例も数多く存在します。次に、失敗した新規事業の事例を6つ紹介し、その原因を探ってみましょう。

Google Glass

  • 概要: 拡張現実を実現するスマートグラス
  • 失敗の理由: 技術は革新的だったが、価格が高すぎ、プライバシー侵害の懸念が強く、一般消費者には受け入れられませんでした。

Juicero

  • 概要: 高価なスマートジュースマシン
  • 失敗の理由: 製品が過剰に高価で、コストに見合う価値が顧客に提供できませんでした。また、専用パックを手で絞るだけで簡単にジュースが出てくることが判明し、大きな批判を受けました。

Segway

  • 概要: 自動バランススクーター
  • 失敗の理由: 期待されたほどの市場需要がなく、消費者が普段の移動手段として使うには不便でした。

Yahoo! Messenger

  • 概要: インスタントメッセージングツール
  • 失敗の理由: 市場の変化に対応できず、FacebookやWhatsAppといった競合にシェアを奪われました。特にモバイル対応の遅れが致命的でした。

Zune (Microsoft)

  • 概要: 音楽プレーヤー
  • 失敗の理由: AppleのiPodに対抗するには遅すぎ、差別化が困難でした。また、マーケティング戦略が失敗し、顧客基盤を築けませんでした。

Pebble Smartwatch

  • 概要: スマートウォッチのパイオニア
  • 失敗の理由: 初期の成功にも関わらず、Apple Watchなどの競合に押され、開発資金不足で倒産しました。

2-3. 良い事業アイデアとは

これらの成功事例・失敗事例から、良いアイデアとは単に革新的であれば良いわけではないことがわかります。以下に、良い事業アイデアの「課題」「価値」「解決策」に共通する要素を挙げます。

解決しようとしている課題が、

  • 実在する: 顧客が現実に抱えている問題にもとづいたアイデアは成功しやすいです。仮説から始める場合も、その課題が実際に存在するかを必ず検証する必要があります。
  • 優先度の高い: 顧客にとって重要で緊急性の高い課題を解決するアイデアは受け入れられやすいです。優先度の低い課題では採用されにくくなります。
  • 解決が難しい: 簡単に解決できる課題は、既に多くの企業が取り組んでいる可能性が高く、差別化が難しくなります。独自性を出すためにも、難しい課題への挑戦には価値があります。

顧客に提供される価値が、

  • 嬉しい: 顧客にとって心から嬉しいと感じられる価値を提供できるかが重要です。この価値が他社製品と比較してどれだけ優れているか、実際に検証する必要があります。
  • 新しい: 他にない新しいアプローチや技術で、顧客に新しい価値を提供できるかどうかが重要です。市場を驚かせることで成功のチャンスは広がります。
  • 増えていく: 時間が経つほど、あるいは使用頻度が増すほど価値が増大するアイデアは、顧客のロイヤリティを高めやすくなります。

課題を価値に変える解決策が、

  • イメージできる: 提案された解決策によって課題が解決される様子が具体的にイメージできることが重要です。課題に対して解決策がどのように機能し、実際に効果をもたらすのかが伝わりやすいアイデアが求められます。
  • 使いこなせる: 解決策が実際に顧客にとって使いやすいものであるか、またその使用ハードルが高すぎないかを確認する必要があります。
  • 手間やコストを許容できる: 解決策を導入する際のコストや手間が顧客にとって負担にならないことも重要です。顧客が気軽に使い始められる仕組みが必要です。

ビジネスとして、

  • 実現できる: アイデアが技術的に実現でき、かつ現実的に実行できる手段が備わっている必要があります。法規制や資金面など、運用上の障壁がないかも検証が必要です。
  • 利益が上がる: アイデアが市場で受け入れられるだけでなく、収益性があり、事業として持続可能な利益を生み出せる仕組みが備わっていることが求められます。
  • 市場規模がある: アイデアが成功するためには、ターゲットとする市場の規模が十分に大きいか、あるいは将来的に拡大する可能性があるかが重要です。ニッチ市場であってもスケールできるかどうかを見極めましょう。
  • スケールできる: 事業の成長に伴い、ビジネスを効率的に拡大できる柔軟性があるかを確認します。スケーラビリティの確保は、成長後の持続的な競争力に直結します。
  • 勝ち続けられる: 競合と長期的に競争し続けられる競争優位性があることが重要です。模倣されにくい要素や、顧客が継続的に選びたくなる理由があるかを検討しましょう。

3. アイデア創出の前に知っておくべき考え方

この章では、成功するアイデアを生み出すために知っておくべき、重要な視点や考え方を解説します。

3-1. アイデア創出で重要なのは『顧客理解』

アイデア創出における最大の失敗リスクは、No Market Need(市場のニーズに合わなかった)です。そしてその原因の大半は、アイデアの前提となる「問い」を間違えていることにあります。事業アイデアを考えるときに重要なのは、まず「誰に、どんな喜びや価値を提供するか」という問いです。解決策に集中する前に、この「問い」を正しく設定することが極めて重要です。

問いを正しく定義するためには『顧客理解』が欠かせません。事業アイデアが顧客にとって本当に意味のあるものかどうかを判断できるのは顧客自身だからです。一方で、多くの企業は『顧客理解』が重要であることを認識していながら、このステップで躓いてしまいます。

『顧客理解』が難しい理由

多くの新規事業が市場ニーズに合わないアイデアに固執してしまう原因の一つは、顧客の本当の課題や欲求を正しく理解していないことにあります。ビジネスの基礎である「顧客理解」は簡単なことのように思えますが、実際には多くの企業がこのステップで躓きます。現在のニーズを知るだけでは不十分で、顧客自身も未来に自分が何を必要とするかを正確に予測することはできません。表面的なデータや顧客の言葉を鵜呑みにしていては、未来のニーズを見極めることはできません。

未来の顧客心理を理解するには

未来の顧客心理を理解するために重要なのは、未来を予測することではなく、仮説としての未来を可視化し、顧客がそれを今体験できる形にすることです。顧客に「未来のあなたはこれを欲しいと思うか」と尋ねても、実際にそのアイデアが支持されるかは分かりません。しかし、未来の仮説を具体的に示し、それを実際に体験してもらうことで、未来における顧客心理や反応を現実として理解することが可能になります。

行動の背景にある心理を掘り下げる

顧客の真のニーズを理解するためには、行動の背後にある心理や価値観を探ることが欠かせません。単に顧客の行動やアンケート結果を見るだけでは、課題の本質を把握することはできません。顧客がなぜその行動を取ったのか、どのような感情や価値観がその選択に影響しているのかを深掘りする必要があります。仮説を立て、それを実際に顧客とともに検証するプロセスが、未来のニーズを発見する鍵となります。

3-2. アイデアの種は原体験から

アイデア創出において、もう一つ重要な考え方は「原体験」です。多くの成功した事業アイデアは、創業者やチームメンバーが自らの経験から得たインサイトをもとにしています。新規事業を考える際には、顧客の課題に寄り添う視点と、自分や他人の実体験から得られる具体的なインサイトを活用することが重要です。

原体験がもたらす洞察

例えば、ある創業者が自分の過去の課題を解決するために生み出したアイデアには、その課題に対する深い理解が反映されています。このような原体験から生まれた洞察は、他の競合が気づけないような潜在的な課題に目を向けるきっかけを与えてくれます。また、原体験は、顧客インタビューや市場調査を行う際の視点を豊かにし、アイデアの検証プロセスにも役立つ武器となります。

原体験がない場合はどうするか

ただし、必ずしもすべての人が、自分自身の原体験をもとにアイデアを生み出せるわけではありません。特に、新規事業担当者として企業の枠組みで事業開発を行う場合、個人の原体験が存在しないケースが多いでしょう。その場合は、リサーチを通じて他人の原体験を借りることが有効です。実在する人々の体験を深く掘り下げ、それをアイデアの土台とすることで、現実に基づいた説得力のあるアイデアが生まれます。

想像ではなく実体験から

重要なのは、ゼロから想像でアイデアを作るのではなく、自分自身や他人の原体験といった「実在する体験」を起点にすることです。これにより、アイデアの質を高め、顧客の共感を得られる解決策を構築することができます。

3-3. 検証したアイデアの数が成功率を高める

新規事業で成功するためには、多くのアイデアを迅速かつ効果的に検証し、次に進むべきか撤退すべきかを早期に判断することが欠かせません。一つのアイデアに固執しすぎると、時間やリソースを浪費するだけでなく、次の挑戦のための余力を失うリスクがあります。反対に、検証から得た学びをもとに適切にピボット(方向転換)することで、成功確率を大きく高めることが可能です。

仮説検証のスピードが鍵

成功の鍵は、仮説検証サイクルをいかに早く回すかにあります。迅速に仮説を立て、顧客との対話を通じて検証し、学びを得る。このサイクルを繰り返すことで、より多くのアイデアを試し、改善するチャンスが増えます。また、顧客と効率的に対話する仕組みを構築することで、検証プロセスのスピードをさらに向上させることができます。スピードを上げることで試行回数を増やし、新規事業の成功確率を飛躍的に高めることが可能です。

早い判断が損失を防ぐ

検証過程では、ピボットや撤退の判断を遅らせないことが極めて重要です。判断が遅れるほど、手戻りが増え、損失が大きくなります。結果として、それまでに投じたリソースが無駄になるだけでなく、次のアイデアに挑戦するための資金や時間が不足する恐れがあります。早めに撤退することで、次の「2発目の弾」を打つ余力を確保し、最終的な成功への可能性を広げることができます。

失敗を恐れず、素早く行動する

検証のスピードを上げ、失敗を恐れず素早くピボットすることで、成功に近づく試行回数を最大化できます。検証を通じた学びを積み重ね、次のアクションに迅速につなげることが、新規事業を成功に導く最大のポイントです。

4. 新規事業アイデアの創出プロセス

新規事業のアイデアは、突発的に生まれることもありますが、ほとんどの場合、段階的に進めるプロセスが必要です。この章では、革新的なアイデアを見つけ出し、検証し、実現するためのステップについて解説します。

4-1. 機会領域を探索する

最初のステップは、市場や技術のトレンドを調査し、新しいビジネスのチャンスがどの領域にあるかを見極めることです。既存の枠にとらわれない革新的なアイデアを生み出すためには、業界の動向や競合他社の動きを分析し、差別化できる機会を見つけることが大切です。以下のポイントに注目してビジネス機会を発見しましょう。

  • 市場トレンド:成長中の市場や新しい市場ニーズを把握する。例として、サブスクリプションモデルやリモートワークの増加などが挙げられます。
  • 技術トレンド:最新の技術がもたらす新たな可能性を探る。例えば、AI、IoT、ブロックチェーンなどの技術革新が市場にどう影響を与えるかを調べます。
  • 競合動向:競合他社がどのような事業を展開しているか、成功の要因や弱点を把握し、差別化できるポイントを見つけ出します。

4-2. 生活者を理解する

新規事業のアイデアは、最終的に生活者の問題解決に繋がるものでなければなりません。そのため、生活者が直面している課題を深く理解し、課題の本質を掴むことが重要です。リサーチや対話を通じて、顧客のニーズや不満を見つけ出し、解像度を高めていきます。

  • 生活者を外から観る:生活者の日常行動を観察し、彼らがどのような課題を抱えているのかを明らかにします。特に、生活者の「習慣」や「環境」に注目することで、見過ごされがちなニーズや、私たち自身が囚われている常識に気付くことができます。
  • 生活者を内から知る:生活者と直接対話し、表面的な悩みだけでなく、その背後にある心理や隠れた要望を引き出します。適切な問いかけを通じて、本人が意識していないニーズや、叶えられない理由まで深く理解することがポイントです。

4-3. 問いを探索する

新規事業を成功させるためには、アイデアの土台となる「問い」を正しく設定することが重要です。ビジネスの成功は、顧客が抱える重要な課題を解決できる問いを見つけられるかどうかにかかっています。問いを探索する際には、以下のステップを検討しましょう。

  • 課題を特定する:顧客がどのような悩みや課題を抱えているのかを具体的に絞り込みます。特に、誰がその課題を抱えており、何によってその問題を解決するのかを明確にします。リサーチを起点に、顧客の原体験や実際の課題に基づいた「ストーリー」を構築することがポイントです。
  • 顧客層を特定する:解決する課題が明確になったら、その課題を抱えている顧客層を特定します。顧客のペルソナを想定し、その人々がどのように解決策を受け入れるか、また課題解決後にどんな価値を実感するかを考えます。
  • 問いを深める:問いの精度を高めるために、アイデアを簡単なストーリーボードや4コマ漫画にして可視化します。これを顧客に見せ、フィードバックを得ることで、問いを磨き込み、アイデアの妥当性を確認します。

4-4. 価値を証明する

このステップでは、アイデアが顧客の課題を本当に解決できるかどうかを検証します。特に重要なのは、顧客がその解決策に対価を支払う意欲を持っているかを確認することです。仮説の検証には、以下のアプローチが有効です。

  • 最小限の実用的製品を作る:最小限の機能を備えた製品やサービスを作成し、小さくローンチして顧客の反応を確認します。ここでのポイントは、「いかに作らないか」を工夫することです。例えば、手作業でサービスを提供する、既存のツールや競合サービスを組み合わせるなど、省力化した方法を模索します。
  • 顧客と対話して検証する:MVPをローンチ後、実際に購入してくれた顧客と直接対話します。「なぜ代替手段ではなくこのアイデアを選んだのか」「元々どんな課題に悩んでいたのか」「このアイデアによって何が手に入ったのか」を深掘りします。この対話を通じて、問いの正しさと価値の大きさを証明します。

4-5. ビジネスモデルを考える

アイデアが市場に受け入れられ、顧客が対価を支払う意欲を確認できたら、持続可能な事業の仕組みを設計する段階に進みます。このプロセスでは、事業全体の構造を整理し、顧客に提供する価値と収益構造を明確にすることが重要です。ビジネスモデル設計で考慮すべきおもな要素は以下の通りです。

  • 顧客セグメント:ターゲットとなる顧客は誰か?どの層に焦点を当てるのか?
  • 価値提案:顧客の課題に対し、どのような独自の価値を提供するのか?
  • チャネル:どの手段や経路で顧客に価値を届けるのか?
  • 収益の流れ:事業がどのように収益を生み出すか?主要な収入源は何か?
  • コスト構造: 事業運営にかかるコストは?収益とのバランスが取れそうか?

4-6. サービスとして具現化する

最終ステップでは、検証を通じてビジネスとして成立することが確認されたアイデアを、具体的なプロダクトやサービスの形にします。この段階では、マーケティングやユーザーエクスペリエンス(UX)の設計も重要です。サービスがリリースされた後も、顧客のフィードバックを元に改善を重ねることで、さらなる成長を目指します。

  • プロダクト開発:具体的な製品やサービスを開発し、市場に投入します。リリース後も、ユーザーの反応を見ながら改善を繰り返すことが成功の鍵です。
  • マーケティングとプロモーション:ターゲット層に向けて効果的なアプローチを行い、サービスの認知度を高めます。戦略的なマーケティングの実行が重要です。
  • フィードバックの反映:顧客から得た意見や市場の反応を製品やサービスの改良に活かします。このプロセスを継続することで、顧客満足度を高め、競争力を維持します。

5. アイデア創出に使える手法・フレームワーク

新規事業のアイデアを考える際には、体系的な手法やフレームワークを活用することが有効です。この章では、情報収集からアイデア発想、検証に至るフェーズごとに、代表的な手法・フレームワークを紹介します。

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新規事業開発のスタートで迷わないために、わたしたちが普段から利用しているフレームワークを厳選してご紹介しています。新規事業開発をより効率的に進めるため、ぜひご活用ください。

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5-1. 情報収集フェーズ

市場や技術、消費者の動向に関する情報を集めます。

  • トレンド分析: 業界の最新トレンドや消費者行動の変化を把握し、それに対応するアイデアを考えます。例として、サブスクリプションモデルやデジタルトランスフォーメーション(DX)の普及などが挙げられます。
  • 競合分析: 競合他社が提供している商品・サービス、マーケティング戦略を調査し、どの分野で差別化できるかを考えます。競合の弱点や見落としがビジネスチャンスになることがあります。
  • ケーススタディ: 成功した事業や失敗した事業の事例を分析し、成功要因や失敗要因を学び、自分のアイデアに応用することができます。
  • 市場調査: 顧客のニーズや課題、市場規模を調査し、ターゲットとなるセグメントや競合状況を明らかにします。
  • 専門家の意見: 特定分野に詳しい専門家の意見や洞察を得ることで、アイデアの現実性や実行可能性を確認することができます。
  • 従業員からのフィードバック: 企業の内部から、現場で実際に働いている従業員の視点を集めることで、実践的な課題解決のヒントを得ることができます。
  • 顧客との対話: 実際に顧客と対話し、彼らがどのような課題を抱えているか、またどのような解決策を求めているかを直接聞き取ります。

5-2. 機会領域の探索フェーズ

集めた情報をもとに、どの領域で事業機会があるかを探索します。

  • SWOT分析: 自社の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)と、外部の機会(Opportunities)・脅威(Threats)を整理し、どの部分でビジネスチャンスがあるかを分析します。
  • アンゾフの成長マトリックス: 新市場や既存市場に対して、新製品・既存製品をどう組み合わせるかを整理し、成長戦略を考えるためのフレームワークです。
  • STP分析: Segmentation(市場の細分化)、Targeting(ターゲット選定)、Positioning(市場における自社のポジション確立)を整理し、ターゲット市場でどのような価値を提供するかを決定します。
  • リーンキャンバス: スタートアップ向けに特化したビジネスモデルキャンバスで、顧客の課題や独自の価値提案を視覚化するツールです。
  • 3C分析: 顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から市場を分析し、どこにビジネスチャンスがあるかを明確にします。
  • 4P分析: 製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の観点から、製品・サービスのマーケティング戦略を構築します。
  • ポーターの5フォース分析: 業界の競争環境を5つの力(競合他社、買い手、売り手、新規参入者、代替品)で分析し、競争優位性を見極めるためのツールです。

5-3. 生活者の理解フェーズ

顧客の行動や心理を深く掘り下げ、彼らが求めているものを明確にします。

  • 行動観察: 顧客が日常生活でどのような行動を取っているかを観察し、彼らが自覚していないニーズや不便を発見します。
  • インタビュー: 顧客に直接質問し、彼らがどのような課題を抱えているか、どんなサービスを求めているかを深く掘り下げて理解します。
  • マインドマップ: 顧客のニーズや行動を視覚化し、どのような解決策が考えられるかを整理するツールです。
  • KJ法: 顧客から得た情報を整理し、関連するものをグルーピングして、課題やニーズの本質を見つけ出します。
  • 共感マップ: 顧客が何を感じ、考え、行動しているのかを視覚化し、彼らの視点に立って課題解決のヒントを得ます。
  • キャスト法: 顧客を具体的に描写し、どのようなニーズや価値観を持っているかを明確にします。これにより、『顧客理解』がより深まります。
  • ペルソナ: 典型的な顧客像を具体的に設定し、その人物が求めている価値や解決策を考えます。ペルソナ設定は、ターゲット顧客を明確にするのに役立ちます。

5-4. アイデア発想フェーズ

具体的なアイデアを発想します。

  • ブレインストーミング: チーム全員で自由にアイデアを出し合い、その中から有効なものを選びます。量を優先することで、革新的なアイデアが生まれやすくなります。
  • オズボーンのチェックリスト: アイデア発想を助けるためのリストで、「他の使い道は?」や「逆転できないか?」などの問いを投げかけることで、視点を広げます。
  • SCAMPER: 既存の製品やサービスをもとに、各要素(置き換え、結合、応用、変更、他用途化、削除、再配置)に当てはめて新しいアイデアを生み出す手法です。
  • 逆転・最悪思考: 最悪の結果を逆に考えることで、意外な解決策を見つける方法です。「最悪の状況をどう防げるか」という問いを起点に解決策を模索します。
  • マンダラート: 中心にテーマを置き、そこから連想するアイデアを8つのマスに書き出し、それをさらに発展させることでアイデアを広げていく方法です。
  • HMW(How Might We): 「どうすれば〜できるか?」という問いを使って、具体的な課題に対する解決策を考えます。
  • タイムマシン法: 過去や未来の視点から、どのようにアイデアを実現するかを考える方法です。未来のトレンドを予測してアイデアを作り出すのに有効です。

5-5. アイデア検証フェーズ

アイデアを検証し、実際に価値を提供できるかを確認します。

  • SB(ストーリーボード): 顧客がアイデアを使ってどのように課題を解決するかをストーリー形式で描き、顧客の体験を視覚化します。
  • CJM(カスタマージャーニーマップ): 顧客がどのようなステップを経てアイデアに触れ、使用するかを整理するマップです。顧客体験を可視化し、改善点を探ります。
  • シナリオ: 顧客の具体的な利用シーンを想定し、どのような状況でそのアイデアが使われるかをシナリオ形式で検討します。
  • ロールプレイング: 顧客役と提供者役に分かれてアイデアを実際に使うシミュレーションを行い、顧客の反応や体験を確認します。
  • MVP(最小限の実用的製品): 最小限の機能を備えた製品やサービスを提供し、早期に顧客からフィードバックを得て、アイデアを検証します。
  • テストマーケティング: 小規模にサービスや製品を市場に投入し、顧客の反応を見ながら改善を重ねていきます。

6. よくあるご質問

新規事業のアイデア創出には、様々な疑問や悩みが伴います。ここでは、よくある質問とその回答を通して、アイデアを考える際のヒントや解決策を提供します。

Q. 新規事業のアイデアを考える際、どの領域を攻めれば良いかわかりません。

新規事業の領域選びは、会社の未来を左右する重要な決断です。単に興味や流行で選ぶのではなく、ビジネスの視点と顧客の視点の両方から考えることが必要です。

  • ビジネス視点:新規事業は、会社の将来を支える主軸となるものです。そのため、どんな領域でも良いわけではありません。もし経営層なら、「会社をどの方向に成長させたいか」というビジョンを明確にし、それに沿った領域を設定する必要があります。現場の立場であれば、そのビジョンを経営層に確認し、方向性を共有しましょう。
  • 顧客視点:領域が大まかに決まっている場合は、その分野の現場に足を運び、観察や対話を通じて、顧客や生活者が抱える課題やニーズを探ります。実際の現場で得られるインサイトは、机上の理論では得られない発見や直感を与えてくれます。このプロセスを繰り返すことで、「この領域には可能性がある」と感じられる具体的なヒントが見つかるはずです。

Q. アイデアを考えても、どこかで見たような平凡なアイデアしか出てこなくて困っています。

アイデアが平凡に感じられる原因は、多くの場合、問いが平凡だからです。特に、問いを構成する要素である価値がありきたりであるケースが多いです。独自性のあるアイデアを生むためには、問いの質を高め、顧客にとって理想的な未来を描き出すことが重要です。

価値を発想する際には、顧客の課題(ニーズ)とそれを解決するためのハードルを組み合わせて、「その状況に置かれた顧客にとって理想の未来は何か」を具体的に想像しましょう。このとき、次の2つの軸を意識することで、アイデアの幅が広がります。

  • 価値の種類:どのような種類の価値を提供するのか?
  • 現実的か未来的か:どの程度、大胆に未来を見据えた価値を提案するのか?

これらの軸を十分に検討せずにアイデアを出すと、偏りや凡庸さにつながります。価値のバリエーションを増やすことで、新しい視点を得られるでしょう。

Q. 手持ちのアイデアに自信が持てません。どうすれば良いでしょうか?

アイデアに自信が持てないときは、悩むよりも早く顧客にぶつけてフィードバックを得ることが重要です。アイデアがまだぼんやりしている段階では、市場調査やアンケートに頼るよりも、具体的な対話に焦点を当てた検証が効果的です。

  • ストーリーボードで体験してもらう:アイデアを可視化する方法としておすすめなのが、ストーリーボードです。わずか1時間程度で作成でき、顧客にアイデアを疑似体験してもらうことで、具体的なフィードバックを得ることができます。このプロセスでは驚くほど多くの学びが得られるため、自信が持てない段階こそ早めに試すべきです。
  • 顧客と直接対話する:事業開発の初期段階では、目の前の一人がそのアイデアに価値を感じてくれるかを重視しましょう。数を求めた調査ではなく、個別の顧客との対話を通じて、アイデアが実際に課題解決に繋がるかどうかを検証する方が効果的です。
  • 小さな成功を積み重ねる:初期の検証では、まず一人にでも「そのアイデアを使いたい」と感じてもらえるかを確認することが目標です。喜んでくれる顧客が現れれば、その反応をもとにアイデアをブラッシュアップし、自信を持って次のステップに進めるようになるでしょう。

Q. アイデアを考えるに当たり、専門家に支援を求めるべきか悩んでいます。

専門家の支援を受けるべきかどうかは、自分たちの知識や経験、そして事業開発のフェーズによって異なります。ただし、新規事業の成功確率を高めるために、専門家の知見を取り入れることは非常に有効な戦略です。以下のポイントを参考にしてください。

  • 何をすべきかで迷わなくなる:専門家はさまざまな事業開発を経験しているため、現状の課題を解決するために「何をすべきか」のパターンを熟知しています。新規事業で最も避けるべきは、次に取るべき行動に迷い、時間を浪費することです。迷いがあると、たとえ正しい方法を選んでいても、それを信じてやり抜けなくなる可能性があります。専門家の助言は、道筋を明確にし、迷いを排除する手助けをしてくれます。
  • 第三者視点でバイアスを排除:新規事業の大敵の一つは「バイアス」です。自分たちのアイデアが成功するはずだという先入観があると、顧客との対話や市場調査から得られる情報を歪んで解釈してしまうことがあります。また、サンクコストの影響で、不利な状況でも撤退の判断が遅れるリスクもあります。優秀なチームでもこれらの心理的影響を完全には避けられません。専門家の第三者視点を取り入れることで、より客観的な判断が可能になります。
  • フェーズごとに必要な専門性を補う: 事業開発にはリサーチ、デザイン、マーケティング、ビジネスモデル設計、採用、契約、法律など、非常に多岐にわたる専門性が必要です。特に新規事業開発では、既存事業の経験がそのまま役立たないケースも多くあります。こうした専門性を効率的に補うためにも、適切なタイミングで外部の力を活用することを検討すべきです。

7. まとめ

新規事業のアイデア創出は、ひらめきや直感だけでなく、体系的なプロセスと徹底した検証が求められます。本記事では、アイデアの定義、成功事例・失敗事例、具体的な手法やフレームワークについて解説しました。

新規事業の成功は、アイデアを形にする行動力と粘り強い検証にかかっています。学んだ手法を活用し、次の一歩を踏み出してみてください。

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監修者

喜多 竜二

えそら合同会社 代表社員/HCD-Net認定人間中心設計専門家

2009年にUXデザインを専門とする「えそら合同会社」を設立、これまでに新規事業をはじめとする200を超える事業を支援してきた。自身は人をより良く理解するための認知心理学を専門とし、生活者に対する共感を出発点としたアイデア創出に力を入れている。東京大学工学部卒業、シドニー工科大学大学院修了。

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