弊社主催セミナー「UXCARAVAN」では、UXデザインを実践するのに役立つノウハウ、事例をご紹介しています。
今回のセミナーのテーマは「対話型ペルソナとは?AIで変わるUXデザイン」です。
ChatGPTなどで知られる生成系AIによるUXデザインプロセスについて、弊社独自のノウハウを詰め込んだ「対話型AIペルソナ」のデモンストレーションをまじえ、AIの取り扱い方とその重要なポイントについて解説したセミナーレポートをお届けします。
※本記事は、2024年1月23日に弊社が開催したセミナー「対話型ペルソナとは?AIで変わるUXデザイン」の内容をもとに作成しています。
目次
AIとUXデザインの現状
AIとUXデザインの現状を考えるうえで、AIがどのように影響するのか、大きく2つの領域について考える必要があります。
1つは、顧客体験そのものへどう影響するのかということ、もう1つは、デザインプロセスにどう影響するのか、という2つの領域です。
2023年は特に、顧客体験に関して進んだところがあり、多くの会社がAIによる新しいサービスをリリースしました。

顧客体験(生成AIの活用例)
■ ブログの記事の構成や中身を提案
例えば、ブログを中心としたメディアプラットフォームの「note」では、ブログの記事の構成や中身を提案するAIが搭載されています。
生成AIの最もイメージをしやすい活用例の1つかと思います。ChatGPTと挙動がよく似ていますが、違いとしては、ChatGPTは自分でプロンプトを書かなければいけませんが、noteは短い質問を書けばAIが考えてくれるという点が挙げられます。
プロンプトを自身で書くことは、サービスの顧客体験としてのハードルが高いので、このような埋め込み型のサービスが今後増えると言われています。
■ AIにお金の悩みを相談
チャットボットも生成AIによって賢い応答が可能になりました。
例えば、家計診断や相談サービスの「オカネコ」は、10万人以上の人が利用しており、対人では抵抗があるお金に関しての相談がAIになると話しやすいという点があるようです。
■ 学習サービス
学生が分からないことをAIが理解し、答えを教えるのではなくヒントを出したり考え方を導くAIを搭載した勉強・学習AIアシスタントアプリ「宿題ポケット」や「GLOBIS学び放題」という動画学習サービスでは、AIが即時にフィードバックをする機能が提供されています。
このように、ユーザーのアクションに対して即時に反応することで、ユーザーの満足度が上がるようなシーンではこれらの活用が増えていくでしょう。
■ マルチモーダルAI
今年はより盛んになると言われているのが、テキスト・画像・音声・動画など複数の種類のデータを一度に処理できるAI技術のマルチモーダルAIです。画像、音声、動画などをインプットに取り扱えるようになり、一部は実現はしています。
例として、飲食店のPRを支援するプラットフォームの「モグカツ」は、投稿した写真の内容を理解し、SNSに投稿するテキスト原稿を自動で作成する機能があります。
デザインプロセス
画像生成AIの「DALL・E」や「Midjourney」、また画像編集ツールにAIが搭載された「Canva」や「Figma」など使用されていますが、これらとは少し異なるツールをご紹介します。
・CLOVA Note
インタビューの発話録作成に使える「CLOVA Note」はインタビューの音声データを書き起こしてくれるツールです。
インタビューでは誰が話したのかということは分析する上で重要ですが、CLOVA Noteは話者の特定まで含めて書き起こしができる点が魅力です。現在オープンベータで毎月300分の無料枠があるというところも試しやすいポイントだと思います。
・Miro
チャットGPTを使ってもアイデア出しはできますが、オンラインマインドマップツールを使うと、アイデア出しをする際に視覚的に分かりやすくなります。マインドマップ風に描画されると発想がしやすくなるので、視覚的に分かりやすいことは非常に重要です。
・Uizard
手書きスケッチからプロトタイプを作成することができます。画像認識AIは以前から注目されていましたが、今後の精度向上が期待されています。

・pimento
デザインを伝えることに役立つムードボードを自動で作成してくれます。ムードボード作成は手間がかかるためこのような自動化ツールが便利です。
・Mixo
1行のテキストから手軽にLPを作成するサービスです。
実際に試してみたところ、10秒ほどでLPが作成されました。精度は現時点ではまだ向上の余地があり、実用するには事前にChatGPTで構成を検討するのがおすすめです。
途中経過を飛ばし、アウトプットにいけるのは非常に便利なので精度は上がってくるでしょう。

AI活用のレベル感
これらのツールは、生成AIの応用範囲が広い特徴があります。
従来のAIは定量的なものを得意としていましたが、生成AIは定性的な処理や人間のような出力を要求されるタスクを得意としています。これにより、デザインプロセスが大きく変わる可能性があります。

生成AIによる効率化は既に進んでいますが、本質的な変化はこれから起こると言われています。
レベル1の従来タスクの効率化はどんどん進んでいますが、デザインプロセス自体が変わるような変化がレベル2、プロセス全体を代行するエージェントの登場がレベル3と予想されています。
今回のメインテーマであるAIペルソナは、レベル1からレベル2の活用方法に当てはまります。
⽣成AIを活⽤した、対話型AIペルソナとは
対話型AIペルソナとは

対話型AIペルソナは、弊社が開発したGPTsです。
実際の人のように振る舞う架空のキャラクターで、ターゲットの好み、行動、ニーズを模倣して直接対話することができます。
このコンセプト自体は新しいものではなく、例えば人工知能の力を利用してリアルなキャラクターを生成するシステムのCharacter AIでは、歴史上の人物とチャットできるような体験が実現されています。
従来のペルソナの限界
従来のペルソナは意思決定ツールとして使われてきました。しかし、従来のペルソナには限界がありました。
ペルソナを作るとチームの認識が揃い正しい意思決定ができると言われていますが、実際は様々な条件が揃わないとそうはなりません。

対話型AIペルソナの利点
対話型AIペルソナの利点は、あたかも本物のユーザーが隣にいて、いつでも話しかけられるような環境が手に入ることで、早く正しく判断できるということです。
1)思考の偏りが排除される
チームの限られた知⾒や思い込みで作成するのではなく、AIが広範な学習データから洞察を抽出
2)不確かな推測をしなくて良くなる
ターゲットの気持ちを推測するという不確かな⼯程に依存するのではなく、AIが気持ちを教えてくれる
3)データにもとづいて情報が補完される
判断に必要な情報が⾜りていない場合、根拠のない想像ではなく、AIが学習データから適切に補完
4)平等な学びの機会とユーザー視点が得られる
チームに後から参加したメンバーとの情報格差 → AIとの対話によって全員がいつでも学びを得られる
5)リアルタイムに更新できる
⽇々得られるユーザーに関する学びを即座に反映、育てていくことができる
これらは従来のペルソナの課題の裏返しになっており、特に対話型であることによって強化されているのが、2)、3)、4)です。
特に既存事業において、アクセス解析などで数字だけ見て分析し、仮説を立てデザインすることもできますが、ユーザーの視点を持ち続けることが難しくなるという課題が生じます。そのため、AIペルソナに人格を持たせて対話できるようにし、常にユーザーの視点を持ち続けられるようにしました。
対話型AIペルソナ 活用デモンストレーション
それでは実際に対話型AIペルソナで、どのようなことができるのかを具体的に見ていきましょう。
ペルソナとしてのインプット
「とあるUXデザイン会社が企業の事業開発担当者向けに新サービスを検討している」という架空の状況設定をします。
ペルソナとして与えた情報は、ニーズ、ゴール、コンテキストの3点のミニマムのインプットです。これに任意のプロフィールを加えたものを最初のインプットとして情報を与えています。

GPTsデモンストレーション
それでは実際に田中さんに質問してみましょう。


「こんにちは、田中さん、自己紹介をお願いできますか」と尋ねると、こちらからインプットとして与えた情報をそのまま言ってくれました。
与えていない情報についても適切に補完してくれるのがAIの良いところです。しかし、補完の具合が、インプットとして与えた情報と近いところで補完しているのか、それともいい加減に補完しているのかについては、重要な情報になります。
「確からしさ」の判定
別の質問として「司法試験に受かるためのポイント」を田中さんに質問してみます。

司法試験に受かるためのポイントは、現在の田中さんの業務とは関係のないことです。そのため、田中さんは「詳しくはないので〜」と一般的に回答できる範囲の内容を答えました。
ペルソナが持ちあわせていない知識などの質問をした場合でも、通常のChatGPTであれば質問に対し、きちんと回答をしてくれます。
しかし、AIペルソナはChatGPTが持っている全ての情報を答えるわけではありません。あくまでも、ペルソナ自身が持っている情報を答えるように調整されているためです。
前述した通り、与えていない情報についても適切に補完してくれるのがAIの良いところですが、その補完をどれくらい信じていいのかを判断するために、対話型AIペルソナでは「確からしさ」という判定基準を設けました。
補完が与えた情報から距離があるもの(でたらめなもの)に関しては、AIに頼るだけではなく、リサーチで検証する必要があります。
このように、ペルソナがそれっぽい回答をする場合に、確からしさを確認し、信憑性が高くないと判断するか、追加のリサーチをしてデータを補うのかなど考えることができます。
AIの活用で変わる、デザインプロセス
AI活用を進展させていくと、デザインプロセスはどのように変わるのでしょうか。
従来のデザインプロセス
新規事業開発を例に考えてみましょう。

新規事業開発は仮説の積み重ねのため、従来のデザインプロセスでは、後になって大きな手戻りが発生するのを避けるため、仮説を一つ一つ検証しながら進めるのがスタンダードです。
つまり、いきなりプロダクト開発に入るのではなく、下記のようなステップを踏みます。
- 生活者を理解し、課題の存在を確認する
- その課題を解決できるソリューションを見つけ、ソリューションがターゲットに刺さるかどうかを検証する中でアイデアを磨いていく
- そのアイデアに実際にお金を払っても良いと思えるほどの価値があるかどうかを証明する
- 投資に値すると判断されるとプロダクト開発に進む
検証を繰り返しながら進むこの流れは、失敗リスクや手戻りを最小化すると言われています。
新しいデザインプロセス
一方生成AIを活用することで、仮説を瞬時に立てることができれば、手戻りがほぼ0になります。

新しいデザインプロセスでは、例えば、ペルソナを作るためのリサーチから始める必要がなく、AIペルソナと対話しながらアイデアを練ることができます。
Phase2でアイデアを考え、そのアイデアを検証する中で、ペルソナも一緒に検証することになります。ペルソナとアイデアをセットの仮説として検証していくという考え方です。
ペルソナやストーリーボードを作るのも、MVPを作るのも、一瞬でできる前提で何回やり直しても大きな手戻りは発生しません。
このような考え方をつきつめていくと、ニーズ収集のためのリサーチからスタートする従来のカスタマーファーストの考え方に対し、まずはモノを作って検証するというプロダクトファーストな進め方が理屈上では成り立ちます。
つまり、AIが作ったMVPやプロダクトを検証する中で、プロダクトよりも手前の仮説、例えばペルソナやアイデアが検証され、要件として抽出されていく、という進め方です。
さすがにAIを使ってプロダクトを一瞬で作るところまではまだ到達していませんが、その手前のアイデア探索や価値検証からスタートするプロセス、つまりストーリーボードやMVPを作って検証するような段階に関しては、すでに実現可能なレベルにあります。
まとめ
生成AI×ペルソナと考えると、まずAIでペルソナを作ることを考えると思います。
しかし、効率化という点では良い活用方法ですが、ペルソナというツールの持つ弱点をどう克服するのか、あるいはツール自体を何かに置き換えられないのかという観点で考えていけると、より良い活用方法が見つかるのではないでしょうか。
生成AIが一瞬で仮説を立ててくれる一方で、現時点では、生成AIだけではハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成する現象)の問題や、そのハルシネーションも見分けづらく、仮説の精度もまだ粗い部分があるので、実際にユーザーを相手に検証することは当面なくならないと思います。
生成AIの精度がいかに上がっても、検証の部分で確認を入れることが重要です。
新規事業開発の初期フェーズでは、ターゲットが明確でないことが多くリサーチにも限界があるため、AIペルソナが向いているフェーズです。
今回の「対話型AIペルソナ」については無料のアーカイブセミナーでもご覧いただけます。GPTsもお試しいただけるリンクも共有しておりますので、ぜひご活用ください。
えそらLLCでは生成AIを新規事業開発プロセスに取り入れた支援を行っております。
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