新規事業をはじめとする事業開発におけるUXデザインが取り扱うアイデアやデザインは、いずれも何が正解かわからない不確実性の高い仮説ですので、本当にそれらが想定どおり機能するのかを、ターゲットにぶつけてみて確認する必要があります。
そこに立ちはだかるのが、その ”ターゲット” をどこから探してくるのかという問題です。調査会社にお金を払えば条件にあった人を連れてきてくれるというのは知っていても、そんなに予算をさけないというチームも多いのではないでしょうか。
本日は、リサーチに強いUXデザイン会社である私たちが実務でよく利用している、ユーザーインタビューの対象者を募集する方法7選をご紹介します。それぞれ特長が異なりますので、貴社の状況に応じて、ぜひ使い分けてみてください。
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目次
1. 各種リクルーティング方法の特徴
私たちが実務でよく利用しているインタビュー対象者の募集(リクルーティングと言います)方法をご紹介します。無料で使えるものを多めにピックアップしました。
1-1.【無料】紹介(機縁法)
人脈をつたって条件にマッチしたインタビュー対象者を紹介してもらう方法です。古典的ですが、新規事業開発においては特に初期のフェーズで、今なおよく使われています。
- ターゲットにつながる人脈さえあれば、コストがかからず確度も高い
- 大人数のリクルーティングには向いていない
1-2.【無料】SNSのつながりから
FacebookやTwitterなど、自身のSNSで直接つながっている人に協力を呼びかける方法です。簡単なアンケートと組み合わせて、条件とマッチしているかを確認します。
- 知り合いにターゲットが多くいれば、コストがかからず確度も高い
- 大人数のリクルーティングには向いていない
1-3.【無料】自社の社員から
社内にインタビューへの協力を呼びかける方法です。母集団が偏りがちなので用途は限られますが、基本的なユーザビリティの検証を目的としたユーザーテスト等では有効です。
- 他部署に依頼するなど偏りの少ない人選ができれば、手軽で早い
- アイデアの検証にはあまり向いていない
1-4.【無料】自社サービスの登録ユーザーから
自社サービスに登録してくれた人に声をかける方法です。ローンチ後、PMF(Product Market Fit)を目指すチームにとっては欠かせない方法になるでしょう。
- 自社サービスを自らの意思で選んでくれた人のリアルな話を聞ける
- 競合サービスの利用者や退会してしまった人には話を聞けない
インタビュープラットフォーム(1-6で紹介)の中には、自社サービスの登録ユーザーからの募集に特化した無料ツールもあります。
【無料】pivo(ピボ)
1-5.【有料】調査会社
調査会社に登録している数百万人の中からターゲットにあった人を探してもらう方法です。精度の高いリクルーティングが求められる事業開発の後期において重宝します。
- ターゲット条件にマッチした人をピンポイントで探せる
- コストが高く、期間も数週間かかる
1-6.【無料/有料】インタビュープラットフォーム
従来、調査会社が提供してきたリクルーティング機能をツール化したものがインタビュープラットフォームです。ここ1〜2年で新しいサービスが次々と立ち上がっています。
- 調査会社を利用するよりも、安く早い
- 事前アンケートで対象者を絞れるが、調査会社の精度には及ばない
以下の記事で代表的なものを比較しましたので、ぜひ参考にしてください。
(記事内で取り上げられているインタビュープラットフォーム)
1-7. 通常のマーケティング活動
ターゲットを集客するマーケティングの仕組みを試験的に構築し、そこからインタビュー対象者をリクルーティングするという方法もあります。コンテンツマーケティングやSNSでの発信、セミナー開催などがこれに該当します。
新規事業開発においては、ターゲットにリーチできる仕組みを構築できるかというのも重要な検証ポイントとなります。もし、あなたがリクルーティングに困っているのだとすれば、それは手持ちのコネクションではリーチできない難しい層を狙っているということになるはず。事業検証の一環として、マーケティング活動を始めることも検討すると良いでしょう。
2. リクルーティング方法の比較
個々のリクルーティング方法は一長一短なので、実際にはいくつかを組み合わせたり、要件に応じて使い分けたりすることになります。そのため、それぞれのリクルーティング方法を正しく理解しておく必要があります。下記、比較表をご用意しました。
これを見ると、大雑把に以下のようなグループがあり、
- 安く早い=紹介(機縁法)、SNSのつながり、自社の社員
- 精度が高い=調査会社
これらの長所を組み合わせるような形で「インタビュープラットフォーム」が出てきたということがわかります。
3. 事業開発フェーズごとにおすすめのリクルーティング方法
1〜2章でご紹介した内容をふまえて、新規事業を想定した事業開発フェーズごとに私がおすすめだと思うリクルーティング方法をご紹介します。
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最初の仮説を立てるフェーズでのリクルーティング
事業開発を始めてすぐ、これからアイデアを見つけないといけないというフェーズです。机上でアイデアを出すこともできますが、N=1(一人の生活者)でも良いので、誰かの実体験をもとに、その人に喜んでもらえるストーリーを考えることで、最初の仮説としてのアイデアの精度が上がります。
このフェーズでは、そもそもターゲットが誰なのか決まっておらず、手探りで進む状況が続きます。そのため、マッチングの精度よりも、ざっくりと対象領域にいる人に次々と会って仮説を生み出し、磨いていけるかがポイントになります。
おすすめのリクルーティング方法:
紹介(機縁法)、SNSのつながり、インタビュープラットフォーム
アイデアを検証するフェーズでのリクルーティング
見つかったアイデアがターゲットにとって価値あるものなのかを確かめるフェーズです。MVP(Minimum Viable Product)としてアイデアを可視化します。ぼんやりとしたターゲット像に合致する人との対話を繰り返し、コアターゲットとは誰か、あるいは誰ではないのかという境界線を明確にしていきます。
このフェーズでは、一応のターゲット条件があるため、まだ高いマッチング精度は必要ないものの、一定の条件に合致する人と次々に会えることが重要です。そして、コアターゲットが明確になってくるほど、マッチングの精度が求められるようになります。
おすすめのリクルーティング方法:
前フェーズからのつながり、インタビュープラットフォーム、調査会社※
※特に精度の高いリクルーティングが求められるとき
デザインを検証するフェーズでのリクルーティング
アイデア(=何の価値を実現するのか/What)と同時に、デザイン(=それをどう伝えるのか/How)を確認するフェーズです。プロトタイプとしてデザインを可視化します。0→1のデザインは、想定どおりに機能しないことも多いので、必ずテストしましょう。
ユーザーの前提知識や経験に大きな影響を受けるタスクまわりのデザインを検証するときは、ターゲット条件に合致した人に見てもらう必要があります。一方、基本的なユーザビリティの検証では、ネットリテラシーが一致していれば事足りることもあり、その場合は、自社の社員を対象にした簡易なテストでも良いでしょう。
おすすめのリクルーティング方法:
前フェーズからのつながり、インタビュープラットフォーム、自社の社員※
※基本的なユーザビリティの検証時に限る
サービスをローンチした後のリクルーティング
めでたくサービスをローンチできた後に必要なのは、獲得できたユーザーがどうして自社のサービスを選んでくれたのか、満足して使ってくれているのかを理解することです。PMFを目指して、しっかりと価値を感じてもらえるプロダクトに磨き上げましょう。
そのためには当たり前ですが、自社サービスの登録ユーザーに直接声をかけて話をきくほかありません。一人ずつメール等で連絡を取ることもできますが、そこを自動化してくれる無料ツールもありますので、以下を参考にしてみてください。
【無料】 pivo(ピボ)
おすすめのリクルーティング方法:
自社サービスの登録ユーザー、インタビュープラットフォームの一部※
※自前のリクルーティングに対応しているもの
4. リクルーティングに関するFAQ
Q. 自社社員を対象にリクルーティングしても問題ない?
ユーザーインタビューを実施するにあたって、「自社の社員を対象にできたら早いし、手軽だよね」と考えたことがある方も多いでしょう。ただし、自社の社員をリクルーティングの母集団にするときは、以下のような偏りがあることを理解しておく必要があります。
- 同じような価値観の人たちばかり
(例:先端技術に興味がありスタートアップで働くことを選択した人の集まり) - 余計な周辺知識や先入観を持っている
(例:会社の方針として店舗型のビジネスアイデアは承認されづらいと知っている) - 同僚には言いづらいことがある
(例:家庭や家計の悩みは知られたくない/顔見知りだし批判しづらい)
例えば1,000人を超える規模の会社で、他部署に依頼するなど偏りの少ない人選ができるケースを除き、アイデア検証のリクルーティングには全般的に向きません。基本的なユーザビリティの検証を目的としたユーザーテスト等、用途が限られる点に注意してください。
Q. リクルーティングを調査会社に頼んだ方が良いケースは?
調査会社に依頼する方法は最もコストがかかります。各種リクルーティング方法の長所を取り込んだインタビュープラットフォームの登場により選択の幅は広がりましたが、それでもなお、調査会社を使ってリクルーティングした方が良いケースは残っています。
1)厳しい条件に合致する人にピンポイントでインタビューしたい
→ 数百万人から意中の人を探し出せるという点でマッチング精度は随一
2)特殊な準備が必要なインタビューを実施したい
→ サンプルを郵送して自宅で使ってもらうなどの要件にも応えてくれる
3)その場で試食してもらうなど対面のインタビューでないとダメな理由がある
→ インタビュープラットフォームはオンラインに特化したところが多い
これらのケースでは現状、他のリクルーティング方法(インタビュープラットフォームを含み)では代替することが難しいため、素直に調査会社に依頼するのが良いでしょう。
Q. 自社の登録ユーザーを対象にするとバイアスがかかる?
サービスのローンチ後は、まず登録ユーザーを対象にインタビューすることをおすすめしています。このフェーズで検証すべきなのは、自分たちが想定したカスタマージャーニーが成立しているのか、結果として提供したい価値が伝わっているのかということです。
そのために、例えば、以下のようなことを明らかにする必要があります。
- このサービスをどこで知ったのか?
- 他にも選択肢がある中で、どうしてこのサービスを選んだのか?
- 導入はスムーズに進んだか?
- 実際に使ってみて、今どう思っているのか?
これらは自社サービスを使ってもらっている人たちにしか聞けない質問です。このような仮説検証を目的にインタビューを実施するのであれば、「自社の登録ユーザーを対象にリクルーティングすること」は “バイアス” には当たりません。
一方で、以下のようなときにはバイアスがかかるため、他のリクルーティング方法の採用や併用を検討した方が良いでしょう。
- ブランドの競合比較をしたいとき
自社に好意的なユーザーが多かったり、各社に対して前提として持っている
情報量が違いすぎたりして結果が歪む - 初見の反応を知りたいとき
サービスサイトでの意思決定やオンボーディングでの学習効果を検証したいときなど、
すでに結果を知っている経験者だと初見の反応が取れない - 自社の登録ユーザ自体に偏りがある
キャンペーンに応募した人の連絡先しか持っていないなど、
登録ユーザーが全体を代表していないときは、特異な結果が出がち
Q. 競合他社のユーザーにインタビューしたいときは?
他社サービスの利用者に話を聞きたいときに使える確度の高いリクルーティング方法は、インタビュープラットフォーム、調査会社です。ただし、特にBtoBや先進的な領域など、サービスの普及具合によっては、これらの方法を使っても見つからないことがあります。
その場合、自社サービスを利用している人の中に、他社サービスを利用していた経験がある人はいないかという可能性を探るのは一考に値します。もちろん、その人が持っている情報の量や鮮度は気にすべきですので、
- どれくらいの期間使っていたのか
- いつまで使っていたのか(直近だといつ使ったのか)
を確認したうえで、協力をお願いしてみると良いでしょう。
Q. どうしてもターゲットにリーチできないときはどうする?
「ターゲットにリーチできない」ということは「アイデアの検証ができない」ことを意味します。この「検証できない」は、不確実性の高い仮説を取り扱う新規事業をはじめとする事業開発において、「予算がない」「実装する技術がない」などと同レベルで致命的だと考えた方がよく、看過できない問題です。
ここで考えるべきは「ひとりで良いのでターゲットに今すぐインタビューするにはどうすれば良いか」というお題です。サービスをローンチした後は、何らかの形でターゲットにリーチして売っていくわけですから、未来永劫リーチできないと想定しているわけではないですよね?ケース・バイ・ケースですが、何かしら方法あるはずです。
それでも、どうしても策が思いつかないという場合は、あなたがローンチ後にやろうと思っている集客施策を今すぐ開始してください。その施策自体の検証にもなりますし、上手くいけばインタビューに協力してもらえるターゲットに巡り会えるので一石二鳥です。(1-7. 通常のマーケティング活動も参照してください)
リクルーティングを制する者がインタビューを制す!
新規事業をはじめとする事業開発において、アイデアやデザインを検証することは、成功確率を高めるうえで最も重要な活動の一つです。特に、事業開発の初期フェーズでは予算が十分に組まれていないことも多く、スピードも要求される反面、ここでの仮説の誤りが後々になっての命取りになるという、非常に難しい舵取りを要求されます。
本記事で挙げたようなリクルーティング方法を使い分けることによって、そのような制約の中でもしっかりと成果を出していけるよう、がんばってください。
リクルーティングをはじめとして、ユーザーインタビュー全般に悩んでいる方はご相談に乗りますので、ぜひお問い合わせください。