弊社主催セミナー「UXCARAVAN」では、UXデザインを実践するのに役立つノウハウ、事例をご紹介しています。
今回のセミナーのテーマは「新規事業のアイデア創出に使える!AIとの壁打ち方法とは」です。
ChatGPTを始めとする生成系AIの活用が進んでいる中、生成系AIを使った新規事業のアイデア出しや磨き込みを試みた経験がある方もいるのではないでしょうか。アイデアを磨き上げるためには、なぜそのアイデアが良いのかを考え、問いに戻り咀嚼するプロセスを繰り返すことが重要です。
今回は、ノウハウを詰め込んだ、アイデア創出期に活用できる、AIを使ったアイデアの壁打ち方法をご紹介したセミナーレポートをお届けします。
※本記事は、2024年4月16日に弊社が開催したセミナー「新規事業のアイデア創出に使える!AIとの壁打ち方法とは」の内容をもとに作成しています。
目次
1.アイデアの失敗パターン
まず、アイデアの失敗パターンについてお話します。 こちらの資料は100社を超える海外スタートアップ企業が失敗した理由が並んでいます。
注目していただきたいのは、1番上の「No market need」、これは日本語にすると「誰もそれを欲しがらなかった」と訳せます。つまり新規事業が失敗した理由として、アイデアそのものがよくなかったという理由で撤退していることがわかります。
また、2位から5位の資金調達や採用、競合、価格設定といった理由も、アイデアが良ければ回避できる場合が多いです。つまり結局はアイデアが重要だということが読み取ることができます。
「No market need」には、いくつかのパターンがあり、今回はその中でも特徴的な5つのパターンを紹介します。
失敗パターン1:他にもっと大事なことがある

多少のニーズはあるものの、相対的にニーズが弱いパターンです。
例えば、エコ活動を推進するアプリがあったとします。エコには関心がある人はいるものの、日常的な優先度が高くないため積極的に新しい行動を起こそうとしない場合が多いので、アプリだけではなく何かのついでに利用をしてもらえるような仕組みを作らないと、フックが弱くなってしまいます。
失敗パターン2:後回しにしても困らない

ニーズはあるが、他のことを優先されてしまうというパターンです。
典型的な例として挙げられるのは、ヘルスケア系のサービスです。健康的な食習慣を身につけるなどのサービスとしてのニーズはありますが、健康な人ほど特に今すぐに行動を起こす必要を感じずに後回しにされてしまうことが多いため、今すぐに始める動機づけを作る必要があります。
失敗パターン3:すでに解決されている

強力な代替手段があり、特に困っていないパターンです。
例えば、マイナンバーカードを健康保険証として使う場合、従来の保険証に特に不便を感じていない人が多く、乗り換えるメリットを感じにくいというような状況です。この場合、強力なメリットや乗り換えコストをクリアする必要があります。
そのサービス内でメリットが作れない場合は、例えばポイント付与などの外付けのメリットに頼らざるをえなくなり、非常に厳しい状況になります。
失敗パターン4:その未来はあまり嬉しくないすでに解決されている

これは、実現される未来に大きな魅力を感じないというパターンです。
子供が自ら進んで勉強するように設計された、家庭学習を支援するIoT文具ツールがありました。このツールの受けが悪かった理由は、子供が勝手に独り立ちして親として自分の関与がなくなってしまうことに違和感を持たれたことです。
また、そのツールをお金で購入することに抵抗感を持つという反応もありました。理想的な未来のように思えるものの、何かしらの違和感を感じてしまう場合、この違和感の正体をしっかり突き止める必要があります。
失敗パターン5:既視感のある未来だった

これは競合が多く、みんなが同じことをしようすることで起こる失敗パターンです。
例として、フラッシュマーケティングサイトのケースがあります。数年前日本でも多くのサービスが立ち上がりましたが、最終的に生き残ったのは少数のサービスだけでした。
このように全てのサービスが同じ未来を目指してしまうと、多くのサービスは生き残れずに消えてしまいます。サイトのデザインや機能の違いではなく、結果的に何が手に入るか、提供価値のレベルで差別化をしないと、同じようなサービスとみなされてしまいます。
No market needの正体

これらの失敗パターンには共通性があり、大半がアイデアを構成する「課題」「価値」「解決策」のうち、特に「課題」と「価値」に誤りがあることが原因です。
つまり、No market needになった理由は、解決策が間違っていたのではなく、問いの部分が間違っていたということです。一般的なブレストでは解決策ばかりに目が向きがちですが、本当に良いアイデアを出すためには、正しい問いを探ることに注力すべきです。
2.良い事業アイデアの条件とは
ここでは「良いアイデアの条件」を整理していきます。前述の通り、問いが重要であり、問いは「課題」と「価値」の組み合わせで構成されます。つまり、「誰にどんな喜びを提供するのか」を明確にする必要があります。
まず、課題に関する条件を見ていきます。アイデアが解決しようとしている課題がどのような性質を持つべきか、3つのポイントを挙げていきます。
解決すべき課題とは

- 実在する課題である
これは誰かの実体験に基づくものであることが望ましいです。アイデアがどこから生まれたかによって、課題自体が仮説のこともあります。例えば、「IoT文具を作ろう」という発想が先にあり、その後に「どんな課題を解決するか」を仮設ベース考える場合です。このような場合、まずはその課題が実在するか、実例を集めます。 - 優先度の高い課題である
優先度は、重要度と緊急性で構成されます。課題が緊急でなければ、後回しにされてしまいます。
例えば、動画配信サービスの競合は、必ずしも他の動画配信サービスだけとは限らず、全く異なるカテゴリーの「ゲーム」であることもありえます。
これは、ユーザーが利用する時間や予算といったリソースを、異なるサービス同士で奪い合っているためで、同じ商品カテゴリーだけに競合が存在するわけではないので、広い視点で捉えることが重要です。
- 解決が困難な課題である
未解決で解決しようとしてもできないものが望ましいです。もし優先度の高い課題であれば、課題に直面した人は何らかの方法で解決しようとした痕跡が確認できるはずです。全く解決しようとしていない場合は、その課題の痛みが少ないか、もしくは、今すぐ解決しようとは思っていない可能性があります。
そのため、どうしてその課題が簡単に解決できないのか、しっかり理由を理解して確認していく必要があります。
次にアイデアが提供しようとしている「価値」がどのような性質を持つべきか、これも3つのポイントにまとめました。
提供すべき価値とは

- 嬉しい価値である
まず、価値は「嬉しい価値」でなければなりません。
しかし、この「嬉しさ」を予測・評価するのは非常に困難です。たとえば、ある未来や価値を提示され、「どれだけ嬉しいですか?」と聞かれても、「嬉しいです」としか答えようがなく、その絶対値を測るのは難しくなります。そこで、仮説として複数の未来や価値を提示し、それらを比較してもらうことで、「嬉しさ」の度合いをより正確に推し量れるようにします。
単に「嬉しい」と言われただけでは、条件を満たしているとは言えず、工夫をしないと、ぼんやりした理解にとどまってしまいます。 - 新しい価値である
すでに誰かが実現している未来では、人の心は動きません。「既視感」が重要なキーワードです。
重要なのは「本当に新しいかどうか」だけでなく、それを「新しい」と認識してもらえるかどうかです。斬新すぎると逆に受け入れられない場合もあり、この微妙なバランスが重要で検証するのが難しいことがあります。 - 増えていく価値である
時間が経つほど、使えば使うほど「価値が増大するもの」が望ましいです。
ネットワーク効果※ や蓄積したデータの活用は今や新規事業開発では当たり前に組み込まれるべき要素となっていますが、重要なのは、価値が増えるスピードです。
スピードが遅いと後発のサービスに一気に抜かれる可能性があるため、今後はさらにスピードも気にする必要があると思います。
※ 製品やサービスが利用者の増加に伴いその価値を増す現象:[例] Google、Yahoo!のような検索エンジン
ストーリー
全く違うタイプのアイデアの良し悪しを見極める方法として「ストーリー」があります。ストーリーでは、何に悩んでいる人がどのように解決して、何を手に入れたのか、を時系列でストーリー形式にアイデアを描写します。

ストーリーは、あまり良くないアイデアに対しては違和感を感じ、逆に良いアイデアには高揚感を感じるので、アイデアの良し悪しを直感的に判断することができます。
ターゲットに見せて検証する前段階でストーリーを書くことによって、「こんな未来は欲しくない」など違和感や嘘っぽさに気づくことができるので、ある程度直感的にアイデアを評価するのに役立ちます。
この表現の方法を弊社では「ストーリーボード」とよんでいます。
先に挙げた課題と価値に関する条件ベースで細かく検証していく方法でも良いですが、議論ベースでアイデアを練る時にストーリーのような方法を活用することもおすすめします。
3.アイデアの壁打ち 活用デモンストレーション
新規事業の成功確率を上げる秘訣は、失敗リスクを最小化することにあります。
なぜなら、新規事業が成功する確率は、様々な要素の掛け算となるため、どれか一つでもゼロになると、全体がダメになってしまうからです。そのため、新規事業開発では ”失敗リスクをどう避けるか” が非常に重要になります。

その中で、経験者との壁打ちは、顧客との対話と並んで、失敗を回避する効果の大きい代表的な手法といわれています。
実際、失敗リスクを下げるのに効果がある活動として成功しているチームが取り入れているのが「経験者との壁打ち」です。
<経験者との壁打ちで得られること>
・第三者として、本⼈たちが気づきづらい客観的な視点を提供できるため、無意識のバイアスやサンクコスト(回収不可能な過去の投資で、意思決定に影響すべきでない費用のこと)から解放される
・類似の課題を乗り越えた経験から打ち手をたくさん持っているため、何をするかで迷うことなくスピーディーに動ける
・過去の失敗・成功経験に基づく意思決定の勘所を知っているため、少数の質的根拠をもとに正しい判断ができるようになる
しかし、すべての新規事業開発チームに、常に気軽に壁打ちできる経験者がいるわけではありません。
そこで今回、当社がこれまで多くの事業開発支援を行ってきた中で培ったディスカッションノウハウを詰め込み、新規事業開発アイデア創出に特化した壁打ち用GPTs「事業アイデアの壁打ち」を開発しました。
事業アイデアの壁打ち
「事業アイデアの壁打ち」は、事業開発に関するアイデアを壁打ちするためのガイド役として設計されたGPTsです。検討している事業アイデアについて、失敗リスクを下げる手助けをして、アイデアの具体化と検証の効率化が期待できると思います。

今回のデモでは、実在するアイデアとして、弊社が開発しているリクルーティング業務を自動化するインタビュー業務支援ツールを取り上げます。このツールのアイデアを温めている段階と仮定して、このアイデアが良いものかどうかを判断するために壁打ちしてほしいという架空のシナリオで進めます。
こちらは、ChatGPTのGPTsを実装したデモになります。ではスタートします。
1.体系的なアプローチ
まずは、検討中のアイデアを入力した結果です。ステップごとの質問を通じて、アイデアの具体化を進め、問題点を洗い出しています。

2.客観的なフィードバック
次に客観的な視点からフィードバックを提供してくれました。これにより、盲点が減り、 多角的な視点でアイデアを検討することができます。

3.具体的な行動計画を得られる
最後に仮説の確からしさを評価し、具体的な検証ポイントを整理した結果です。
これにより次のステップが明確になり、実行に移しやすくなります。

解決される課題か、実在する課題か、優先度の高い課題か、解決困難な課題かというテーマごとに内容を要約し、仮説の確からしさを星3つで評価して整理してくれました。
通常このような壁打ち作業は人力で行いますが、GPTs「事業アイデアの壁打ち」を活用することで、アイデアの具体化と検証の効率化が期待できます。
4.事業開発への応用
事業開発において、新規事業の成功確率は様々な要素の掛け算だと考えています。掛け算なので、どれか1つでも0になれば全体が0になる、ということが起きるのが難しい点です。そのため、1つも「0」を作らないことが非常に重要です。
新規事業を成功させるためには、要素のバランスを取る必要があり、見えていない要素も多くあります。そのため、成功の方程式を一概に言うことはできませんが、一方で失敗の法則には再現性があります。失敗の原因は1つでも「0」なら全体が失敗となるからです。
その失敗リスクを最小化するためには、先ほどもお話した通り「経験者との壁打ち」が有効です。
今回ご紹介したGPTs「事業アイデアの壁打ち」は、経験者を常にそばに置けない新規事業開発チームにとって、手元で繰り返し検証できるようになることで、仮説のブラッシュアップを加速させることが可能です。
5.まとめ
事業開発において、スピードは非常に重要です。スピードが増すことでチャンスも増え、それが成功確率を高めることになります。生成AIをこのような場面で活用すれば、大きな効果が期待できるでしょう。新規事業の成功確率を上げるために、うまく活用していただければ幸いです。
今回ご紹介した「事業アイデアの壁打ち」については無料のアーカイブセミナー、「新規事業のアイデア創出に使える!AIとの壁打ち方法とは」でもご覧いただけます。GPTsもお試しいただけるリンクも共有しておりますので、ぜひご活用ください。
えそらLLCでは、生成AIを新規事業開発プロセスに取り入れた支援を行っております。 生成AIを活用した新規事業開発にご興味がございましたら、お問い合わせください。