今回は、パナソニックホールディングス株式会社さまに行った、新規事業開発のノウハウ移転の伴走支援の事例をご紹介いたします。
お二人は社内の新規事業開発の伴走支援をご担当されていましたが、課題を感じられたことから新規事業開発ノウハウ移転の伴走支援のご相談があり、えそらLLCでは2024年2月から3ヶ月の伴走支援を行いました。
室長の関藤さま、増田さまに、弊社の伴走支援を受けた率直なご感想を伺いました。
クライアント情報/ご担当者さま情報 | |
---|---|
|
目次
ご依頼前の課題と成果
<背景/課題>
ラピッドマニュファクチャリング推進室は、パナソニックグループ内の新規事業を支援する中で、事業開発チームのユーザーインサイトを得る経験やスキルが不足していることが原因で仮説検証がうまく回らず、プロジェクトの進行が滞ることがあるという問題に直面していました。それを解決するため、体系的な知識を身につけて支援能力を強化する必要性を感じていました。
<課題に対する成果>
今回のプロジェクトを通して、ユーザーインサイトを効果的に得る方法を習得することができました。テクニックだけでなく、その背後にある思想を学ぶことに時間をかけ、そこで学んだことを事業開発チームにも伝えることで、共通言語を持つことができるようになり、プロジェクトの進行がスムーズになりました。
インタビュー
新規事業支援の中で直面した新たな壁
– プロジェクト開始前に直面していた課題はどのようなものでしたか?
関藤さま:私たちラピッドマニュファクチャリング推進室は、リーンスタートアップの考え方をもとに、パナソニックグループ内の新規事業チャレンジャーを「モノづくり」の力でサポートすることをミッションとしています。
グループ内の事業会社の新規事業に伴走し、仮説の整理からMVP(Minimum Viable Product)の構想・開発を行っていまして、MVPをプロトタイプのように作り込まずにミニマムに作る組織能力を保持しているのが強みになります。
当初、私たちの部署は社内の公募型アクセラレーションプログラムに伴走していました。起案者は自らの意思で応募して集まってきていることもあり、ユーザーインサイトを得たいというパッションを持っていて、自ら行動を起こされている方が多くいました。
その後、1〜2年して伴走の軸足が、事業会社の新規事業開発チームやR&Dチーム相手に変わったことで、私たち自身がある壁にぶつかることになります。
アクセラレーションプログラムで集まった起案者と比較して、事業会社の担当者さんたちは、「ユーザーにヒアリングをしてインサイトを得る」というところの経験を全くしていなかったんですね。そのため、実質本当にゼロからのスタートになりました。
手探りの中、リサーチを進めましたが、仮説検証の質が上がらないためフェーズを前に進めることができず、私たちの「モノづくり」の組織能力が活きるところまで全くたどり着かずに3ヶ月、半年と時間が経ってしまうこともありました。
そのようなことからやり方自体を変える必要性を感じ、私たちの部署としても、リーンスタートアップやプロトタイピングに加えて、ユーザーにヒアリングをしてインサイトを得る工程を支援できるようになりたいという思いがでてきました。
これを本格的に行っていくのであれば、当然ですが私たちは教える側に回ります。そのためには、自己流ではなく、外部の知見のある専門家に伴走してもらい、体系的に伝授してもらうことが必要だと考え、理論と実践の両方に長けた企業を探している中で、えそらさんに出会いました。
そして、社内の体制はどうしようかと考えていたところに、「やりたいです!」と、手を挙げてくれたメンバーが増田さんだったんです。
増田さま:元々私はエンジニアで、MVP(Minimum Viable Product)を作る仕事をしています。
仮説の精度が悪いと、MVPを制作して価値検証を行っても練り直す部分が多くなります。組織に貢献するためにも、ちゃんとしたインサイトの抽出や、そのための手法や考え方を学び、自分の幅を広げていきたいという思いがありました。そのことを関藤さんに相談したところ、ぜひやろう!ということになりまして。
ラピッドマニュファクチャリング推進室には、ボトムアップで提言したことに対して、きちんと議論した上で良いものをみんなでやっていこう、という組織風土があります。そのような風通しのよい環境があって、自らやりたい!と発言しやすかったのは、非常にありがたかったですね。
3ヶ月間でどこまで成長できるのか、自分自身の限界に挑戦
– 当初の目標やビジョンはどのようなものでしたか?
増田さま:正直な話、明確なゴールを置いていたわけではなく、「3ヶ月間でいかに追い込んで、どこまでいけるのか」という思いでスタートしました。甘えようと思えばいくらでも甘えられるので、「厳しくていいです、追い込んでください」と最初に喜多さんにもお願いしました。
最低限、体系的な知識を得るとか、実プロジェクトで学びながらやるという目標はもちろんありましたが、3ヶ月の決められた期間でいかに自分の能力をストレッチしていくか、というところに重点を置きました。
関藤さま:もし今回外部パートナーを入れてやるなら、バーチャルチーム的なやり方がいいなと思っていました。一方的に従来型の講義を受けるということではなく、実テーマに近い内容を二人三脚で回すイメージです。
このようなやり方を選んだ背景として、私自身が2016年から3年間シリコンバレーに行かせてもらったときの原体験がありました。当時は私ひとりが一人社内起業家のようなポジションにいました。事業開発を進める中である程度アイデアが固まり、これからデザインに入ろうという段階で人を雇い入れたかったのですが、会社の判断でそれは難しかったんですね。
その際に、サンフランシスコに拠点を置くデザイン会社に相談したところバーチャルチームを組んで進めることを提案され、半年ほど実施しました。ベンダー/クライアントの関係ではなく、ワンチームとして課題に取り組むことが結果的に良い経験になり、血肉となりました。
リーンスタートアップとの親和性と信頼感が決め手に
– 数ある選択肢の中で、なぜ弊社をパートナーに選んでいただけたのでしょうか?
増田さま:今回は私がパートナーを決める裁量を与えてもらっていました。
私たちはリーンスタートアップの方法論をベースに考えているため、そことの親和性は決め手として大きかったように思います。
実は「UXデザイン」は「リーンスタートアップ」との乖離があるのではという先入観がありました。でも喜多さんとお話をする中で、デザイン面だけではなく、新規事業を作るためにどうしていくかという点で、考えがぴったり一致しているなと感じました。
また、私がうまく言語化できない部分を、ちゃんと汲み取り理解してくださったことも信頼感に繋がり、えそらさんにお願いしたいなという思いになりました。
不安よりも楽しみ。早くやりたい気持ちからスタート
– 発注段階で懸念点や不安だった点は何かありましたか?
増田さま:特に不安はありませんでした。こちらの話をきちんとご理解いただき、都度「こういうことですよね」と確認もいただいていましたし、事前に色々な資料や進め方のイメージとして他社様の事例も共有いただいていましたので。
私が会社にお金をかけてもらうことに対して、自分の学びだけで良いのか、どうアウトプットを出していけばいいのかという不安はありましたが、えそらさんとは、楽しみで早くやりたいなという気持ちの方が強かったですね。
関藤さま:私の立場から少し付け加えるとすれば、元々は我々の案件にリアルタイムに伴走してもらうことを想定していたので、実テーマが良い題材にならなかったらどうしようという不安が少しありました。
他のメンバーからは、私たちが伴走している実テーマに、喜多さんと増田さんにデザイナーチームとしてジョインしてもらう一石二鳥な案も出ていたのですが、私個人としては、増田さんのレベルアップに特化したいという希望がありました。
結果的にその点は臨機応変に対応していただいたと思っています。
プロジェクト開始後、実際にやってみて、「これではダメだね」となった時にはすぐに辞めるという判断をしてもらったり、実テーマの代わりに増田さん自身が過去に携わっていたアイデアに切り替えてもらったり、フレキシブルに対応いただきました。
毎週報告を受けている際にも先行きに対する不安はなく、懸念点はサクッと乗り越えてもらっているな、という印象でした。
増田さま:その話を聞いて思い出しました!
ご提案のときからえそらさんには「柔軟にやっていきましょう」とお話しいただき、「試してダメだったらそこから学び、改善して前に進むという思想を組織で育んでいきたい」という我々っぽさをよく理解していただいていたと思います。
初めての取り組みだったので、最初から3ヶ月のプログラムの内容を決められてしまうとやりにくいと思っていましたが、柔軟に対応していただけたので、不安を感じませんでした。
「なぜ」を問い続けた3ヶ月、思想を深めることで得た成長
– プロジェクト全体を通して、一番力を入れたところはどこでしたか?
増田さま:私たちの部署は、新規事業を自分たちで生み出すのではなく、クライアントである事業会社に対して支援を行っているので、「どうアプローチすれば、我々のクライアントが新規事業を生み出していけるのか」という視点が重要になります。
今回えそらさんに伴走いただいた際には、テーマを進めることだけを主眼とするのではなく、「なぜそれをやるのか」、「他のケースなど前提が変わるとどうなるのか」といったところを、考える時間を多く取っていただきました。
毎週の定例の中では、えそらさんから色々なことを体系立ててお話しいただいた上で、それを私自身の中で「つまりこういうことだよね」と咀嚼することを意識しました。そういった時間を3ヶ月間ずっと得られていたので、私としては大満足でした。
喜多(えそら):今回のプロジェクトの中では、弊社がおすすめしている、アイデアの発想・検証に活用できるフレームワークである「ストーリーボード」を作成いただきました。こちらについてはどうでしたか?
増田さま:ストーリーボードは、アイデアを4コマ漫画で表現するシンプルなものですが、実際に描いてみると難しさを感じましたね。都度「こういった描き方がありますよ」というコツを教えていただきながら進めました。
大事なのはテクニックではなく考え方で、例えば、アイデアを4コマにうまく収められない時は、自分たちの理解が足りていなく、特に1コマ目に描く顧客の課題がまだ荒削りだとか、描いて終わりではなく、あくまでもアイデアを磨いていくためにどう使いこなすかという思想の部分を学べたことが非常に良かったです。
我々が行っているリーンスタートアップでいう、「顧客のお金を払ってでも解決したい課題が一番重要でソリューションは後から」という考え方にも通じているなと感じました。特に、1コマ目(※ 解決すべき顧客の課題)と4コマ目(※ 顧客に提供する価値)から描くというところに親和性がありますね。
関藤さま:今回のプロジェクトでは、増田さんが私に週に1回報告をしてくれていて、そこで期待通りに進んでいるかを確認していました。
もちろん初心者に3ヶ月で免許皆伝できたら苦労しないですよね。
私が最もこだわっていたのは、表層的なテクニックを詰め込まれて、真の意味を習っていないのは避けたいということでした。プロジェクトが終わって、自分自身が新規事業を回す側になったときに、ある程度のところまでできるには、「なぜやるのか」という思想の理解が大事だと思うんです。報告を聞いていて、そこがきちんと押さえられているなという印象を受けました。
あとは、共通言語ですね。新規事業の進め方には流派もあり、同じことに違う呼び名がついているようなことが多々あります。
例えばストーリーボードの4コマ目(※ 顧客に提供する価値)の話が、「いつも私が言っている〇〇と同じですよね」というように、私たちが使っている言葉とえそらさんが使っている言葉のつながりが理解できたといった報告を聞いていたので、期待に沿った形で進んでいると感じていました。
共通言語がチームを強化、思想を共有しスムーズな進行を実現
– 弊社の伴走支援を受けた結果、どのような具体的な成果が得られましたか?
増田さま:現在私はある事業会社の新規事業に参画しているのですが、今回学んだ思想があったので、ユーザーへのヒアリングの時やインタビューの時も、ノーガードで臨まずにすんでいるなと感じています。
チームのメンバーに、「こういうことをやっていかなければいけないんだよ」と、大切な思想を共有できることが、一番の成果ですね。共通言語ができたことで、チームの進め方がスムーズになり、次に何をすべきかが明確になりました。
まだ初学者レベルかもしれませんが、私がリーンスタートアップのメンタリングをする組織にいるからこそ、その前提を理解し、相手に伝わる言葉でチームに伝えていけるようになったことは成果だと思います。
関藤さま:私も同じ意見ですね。共通言語と、なぜそれが大事なのかという思想が理解できたことが全てだと思います。
今後、新規事業に取り組む中で、学んだはずなのにできないと感じた時に、何ができていないのか、どこが悪いのかが漠然として進めなくなるのではなく、「あの時のあれだ」と立ち戻って、具体的に対処できるようになってくれていることを期待したいですね。
「非常に満足できた」自己成長と新たな視点を得られた充実の3ヶ月
– 今回のプロジェクト全体の評価について率直なご意見をお聞かせください!
※ 「非常に満足できた」「満足できた」「普通」「あまり満足できなかった」「満足できなかった」の5段階評価
関藤さま:「非常に満足できた」の一言です。フォーカスを絞ったことをよく理解していただいて、しっかり満たされたという感覚でした。やってよかったなと思っております。それに尽きますね。
増田さま:私も同じく「非常に満足できた」です。むしろ「非常に満足できた」以上をつけたいです(笑)
もう少し私がうまくできていたらよかったな、という反省点はあります。
最初に取り組んだテーマは途中で辞めることになってしまいましたが、振り返ると、自分自身のテーマの選定や進め方にも要因があったなと思います。ただ、そこでも適切なアドバイスをいただきました。
例えば、これは課題の置き方として良くないよね、という判断の仕方であったり、このペインは深くない、といった話を論理立てて教えていただいたりしました。
せっかく進めていたアイデアを辞めるという選択はとても難しいですが、このような兆候が見えたら辞めたほうが良いとか、ピボットするにも深さがあるなどの重要な判断ポイントを教えていただいたことで、新しい視点で考えることができるようになったように思います。
そのようなことから、学びという意味でマイナスをプラスにしていただいたので、「非常に満足できた」以上をつけたいと思います。
ラピッドマニュファクチャリング推進室の次なる挑戦
– 「今後の事業計画や目標について教えてください。」
関藤さま:我々のリーンスタートアップのお作法とMVPのモノづくりを掛け合わせた新規事業の伴走支援は、社内外含めて非常にユニークで、伴走支援させてもらったクライアントからも100%近い継続希望をもらうなど、お役立ちに大きな手応えを感じています。その上で、TheモノづくりのMVPに加えて、今回のUXスキルを組織能力に加えて、さらに上流のストーリーボードのようなデザインプロトなど、さらに貢献の幅を広げていきたいです。
とはいえ、新規事業を売上で貢献できるレベルまで成長させるには時間もかかりますので、その間の貢献指標を確立して、経営目線でお役立ちを可視化していくことが、直近の組織運営課題になりますね。
増田さま:私は現在参画している事業会社の新規事業で、顧客に価値を感じてもらえるものを事業としてつくって売っていくことを目標にやるのみです。それと同時にラピッドマニュファクチャリング推進室としての成果は意識していきたいです。
また、会社全体の成長という観点で、組織変革に貢献できたらいいなという思いを持っています。
「会社を良くしていきたい」、「もっと成長させたい」、「社会課題を解決したい」など、みんなやり方は違っていても目指しているものが実は同じということってあると思います。そこで、どんな人がどんな思想で動いているのかをもっと深く理解できるようになれば、組織変革のきっかけを見つけたり、推進力を生み出したりできるのかもしれない。相手を理解するという点で、今回学んだ「顧客理解」に通ずる部分もあると思っています。会社からも期待されているところなので、しっかりとやりたいですね。
貴重なお話をありがとうございました!
えそらLLCでは、新規事業における伴走支援を行なっております。顧客理解をベースとした新規事業開発にご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。