大企業ほど難しいといわれるイノベーション。しかし、大手ながら次々と新しいチャレンジを続けている企業も存在します。
今回は、文具・オフィス家具のトップメーカー「コクヨ」主催のセミナーを通じて、コクヨらしいものづくりを伝えるとともに、そのプロセスに立ちはだかった壁と、それを乗り越えるために何が必要だったのかを紹介します。
目次
チャレンジを続ける、コクヨのものづくりとは?
「座る」ことを再定義し、椅子という成熟商品群に革新をもたらしたオフィスチェアー「ing」、IoT 文具として新たな市場創出に挑戦する「しゅくだいやる気ペン(仮)」。大手老舗企業ながら、過去に例のない商品開発へのチャレンジを続けているコクヨは、いずれもデザインプロセスの中にユーザー視点をうまく取り入れ、「モノからコトへ」を実現しています。本レポートでは、セミナーの中で語られた “コクヨらしいものづくり” の秘密に迫ります。
「コクヨらしいイノベーションの舞台裏」概要
コクヨ株式会社は2018年9月28日(金)、コクヨ品川SSTオフィスにて、事業開発部門者に向けた「コクヨらしいイノベーションの舞台裏」と銘打ったセミナーを開催。
コクヨの今までの考え方・つくり方・売り方を抜本的に変えて生まれた家具「ing」と、文具「しゅくだいやる気ペン(仮)」の開発秘話をそれぞれの開発リーダーが披露しました。
講演に続いて催されたパネルディスカッションには、「しゅくだいやる気ペン(仮)」の開発に参加した、弊社代表の喜多も司会として登壇。「ing」開発リーダー木下氏、「しゅくだいやる気ペン(仮)」開発リーダー中井氏らとともに、イノベーションを可能にする秘訣を探りました。
子どもの書く習慣化を助けるIoT文具「しゅくだいやる気ペン(仮)」
「しゅくだいやる気ペン(仮)」は、毎日のがんばりを“見える化”することで、子どもたちが楽しんで勉強したくなる気持ちを育み、継続的な学習習慣をつけることを目指したIoTペン。
いつものえんぴつに取り付けると、書いた分だけ「勉強パワー」が溜まり、それを専用のスマホアプリに流しこむと「やる木」が成長するというもの。
2019年の発売をめざし開発中の商品ですが、今年6月、異例の「開発着手」のプレスリリースを発表し、大きな反響を呼んでいます。
ing チェアーはどのようにして生まれたのか? そのイノベーションプロセスをご紹介します。
事業本部ものづくり本部1M プロジェクト
プロジェクトリーダー 木下 洋二郎氏講演
まずは、360度あらゆる方向に揺れるオフィスチェア「ing」を開発した、木下氏の講演からスタート。
「ing」は、「座りすぎがよくない」という説が世に広まるなか、実は「座る」という姿勢そのものではなく、「ずっと同じ姿勢で動かない」ことに原因があると、姿勢に揺らぎを持たせるオフィスチェアとして誕生しました。
「ing」を発売につなげたのは、「場の見直し」「組織の見直し」「プロセスの見直し」という3つの変革ポイント。それは、社外に開かれた場で、部門ごとに分かれて行っていた商品開発組織を一体化し、数多くのトライアンドエラーを繰り返すというものでした。
椅子に自由に座り楽しそうに体を動かしていた同僚の姿を見て、ユーザー体験への共感が不可欠であると感じたという木下氏。イノベーションを起こすには、常識を疑う視点が必要であり、「モノで考えるのではなく、コトで考えることが大切」と結びました。
書けば書くほど「やる木」が育つ、コクヨのIoT文具開発の取り組み
事業開発センター ネットソリューション事業部ネットステーショナリーグループ
グループリーダー 中井 信彦氏講演
次に登壇した中井氏は、現在開発中の「しゅくだいやる気ペン(仮)」の紆余曲折した経緯を披露。当初は既存商品とコラボすればやりやすい、という今振り返れば安易な考えで企画を立て、それを理論武装するための議論を重ねていったそうです。しかし、子どもを持つ共働きの夫婦のための「見守りペン」として試行錯誤を続けたものの、大きな壁にぶつかります。これは一体、誰に向けてつくっている商品なのか?と。
「幸せな顧客は誰か?」そう考えたとき、これまでの経緯が間違っていることに気づいた中井氏。使う人(子ども)の体験にフォーカスした企画へと転換し、ユーザーを深く理解することが必要と、ハード開発から始まる既存のフローを逆転しました。新たにUXデザインの専門家である「えそら」をチームに加え、行動観察と呼ばれる方法で子どもの実態を把握。仮説検証を繰り返しながら完成に向け模索を続けている様子を語ってくれました。
弊社代表・喜多の司会による、パネルディスカッション
講演の次に催されたのは、弊社代表・喜多の司会による木下氏、中井氏を交えてのパネルディスカッション。イノベーションに欠かせない、「経営陣の理解をどう得ればよいのか」「創造性を高める”場”づくりとは」「”失敗”を恐れず進めるためには」の3つのテーマで繰り広げられました。
「経営陣の理解をどう得ればよいのか」
「幸せにしたい人は誰なのか?」を明確にすれば、経営陣の理解を得られると語るのは中井氏。「私の場合、子どもたちが宿題になかなかとりかかれず、手をつけてもすぐにやる気を失って親に怒られる悪循環、その抜け出せない憂鬱な姿を動画で見せることで共感を得ることができました」。
木下氏も「ユーザー体験をいかに共有できるかが重要」であること実感したと言い、両氏ともに、どれだけ儲かるのか?と数字にばかりフォーカスしても経営陣には刺さらないとの答えでした。
「創造性を高める”場”づくりとは」
「フリーアドレスにしても効果が現れないとなげく企業が多いが、フリーアドレスは通常では巡り会えない情報や知見を共有するために有効なもの。効率を重視する従来型の仕事には合わないため、目的と役割を明確にし、自分にフィットする場はどこかを探るべき」と言うのは木下氏。
中井氏も「仕事内容によってスイッチの入り方が違う。今抱えている仕事はどこに行けばよいのか、場を使い分けることを実践している」と答えてくれました。
「”失敗”を恐れず進めるためには」
中井氏いわく「失敗したときと同じプロセスで進まない」。どこで間違えたかを見直し、次回は違うアプローチをすれば、それは「前進」なので、恐れることなく進んでいけるのはないかと続けました。また、木下氏は、違和感を感じるところを振り返ること、アジャイル型の開発で小さな失敗を繰り返すことの大切さを説き、1年経ってから間違いに気づき、企画を仕切り直した中井氏らチームの決断を称賛しました。
2つの商品のデザインプロセスに見る共通性
「座る」に革新をもたらしたオフィスチェア「ing」と、IoT文具「しゅくだいやる気ペン(仮)」。この2つの商品のデザインプロセスに共通するのは、ユーザーを中心に考えるということでした。ユーザーが実際に使う場面を想定することで、商品化への加速度が高まり、使う人を幸せにしたいという気持ちが原動力となって、経営陣を説得しチームをひとつにしていったという様子が、2名の開発リーダーの話からうかがえました。
また、「モノからコトへ」を実現し、ユーザーの体験や経験を重視することに注力する姿勢も “コクヨらしいものづくり”として、すっかり溶け込んでいるようでした。
まとめ:大企業にあったイノベーションの “型” を
改善や機能追加は得意でも、イノベーションは苦手といわれている日本の大企業。それは固定概念に縛られ、イノベーションに適した場、プロセス、組織に移行できていないことが大きな原因と思われます。
イノベーションに必要な “型” を揃えて、ユーザー視点にもとづいた革新的な製品・サービスを開発したいと考えている方はご相談に乗りますので、ぜひお問い合わせください。