UXデザインに限らず、新しい商品やサービスを企画、改善していくうえで、誰もが「生活者の潜在ニーズをどう捉えるか」に悩んでいるのではないでしょうか。
潜在ニーズは生活者に聞いて出てくるものではありません。それは、生活者本人もまだ気づいていないものだからです。
本記事では、潜在ニーズとは何か、それをどうすれば捉えられるのかを解説します。
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目次
1. 潜在ニーズを “観て” みよう
潜在ニーズとは一言でいえば、「生活者本人もまだ気づいていないニーズ」です。どういうものが潜在ニーズになるのか、いくつか具体例をご紹介したいと思います。
なお、各見出しの後にある「あるある型」「そうそう型」「へぇ型」は、千葉工業大学の安藤昌也先生に教えてもらったものですが、非常にわかりやすいので、私は口頭ではこのように呼ぶようにしています。
1-1. すでにわかっている顕在ニーズ(あるある型)
潜在ニーズを正しく理解するために、まずはその対称となる顕在ニーズを見てみましょう。顕在ニーズは、「生活者本人が気づいているニーズ」です。生活者ご本人の口から語られるものであり、その問題について 1)認識している、2)記憶している、3)言語化できる、という条件をすべてクリアしたニーズということになります。
「調理中に電子レンジで食材を温めたり、出たゴミを捨てたりする作業は、キッチンの中で済ませたい」
こちらの30代女性は、電子レンジやゴミ箱をキッチン内に置くスペースがないため、いちいち隣の部屋に行かなければならず不便だとお話されています。このようなわかりやすい顕在ニーズは、「◯◯について困っていることはありませんか?」といった問いかけで、比較的容易に収集することができます。
1-2. 引き出すことができる潜在ニーズ(そうそう型)
次に、”引き出すことができる” 潜在ニーズを見てみましょう。普段は考えるきっかけがなくて意識していなかったものの、問いかけなどをきっかけに思い出し、うまく言葉にしてもらえたニーズです。このタイプの潜在ニーズを引き出すためには、2)記憶 かつ/または 3)言語化 に対する第三者のサポートが必要です。
「カバンは、毎日中身を入れ替えるハンカチや着替えなどを、取ってきて入れやすい場所に置いておきたい」
こちらの20代女性は、普段、部屋のドア近くにある棚の前にカバンを置いているそうです。理由は「何となく」ということですが、改めて考えてみると、クローゼットからハンカチや着替えを取ってきて入れやすく、棚に置いてある日焼け止めも使ってすぐに入れられて無駄がない場所だからだとお話されています。
このような潜在ニーズは、「◯◯について普段どうしていますか?」と問いかけて実際の様子を見せていただいた後、「それはなぜですか?」「他の場所に置いたとしたらどうですか?」「別の場所に置くのはどんなときですか?」などの問いかけによって言葉にしてもらい、引き出すことができます。
1-3. 仮説として導き出される潜在ニーズ(へぇ型)
最後に、”仮説として導き出される” 潜在ニーズを見てみましょう。本人の口から語られたわけではないものの、第三者から見て「そのような要望があるのではないか」と推測できるニーズです。そもそも認識していないので、本人の記憶になく、言語化もできません。
「雨で使った後の傘は、一度干しで(あるいは干さずに)乾かしたい」
こちらの30代女性は、傘を乾かすとき、玄関の傘立てにいったん差し、しばらくしたら広げて干し直すということを習慣として行っているようです。二度干しが必要な点、干している間は傘が玄関を占領している点について、特に不満を感じている様子はありません。
このようなケースでは、ご本人の認識の前提となっているであろう「傘は使ったら干す」「二度干しの方が乾かしやすい」といった常識をあえて反転し、「傘を使っても干さなくて良いとすれば」「一度で済むとすれば」という視点で発想することで、妥当性の高い新しい潜在ニーズを導出することが可能です。
2. 潜在ニーズとは結局なにか
前章の動画をご覧いただくことで、まずは潜在ニーズを感覚的に理解いただけたのではないでしょうか。ここでは、もう少しロジカルな理解に役立つ3つのモデルをご紹介します。
2-1. どれくらいの潜在領域があるのか(氷山のモデル)
潜在ニーズとは、人が 1)認識していない、2)覚えていない/意識しない、3)言語化できない という条件のいずれかにあてはまるニーズのことを言います。(1-1でご説明した顕在ニーズの裏返しになっています)
人は自身の行動の大半(7〜9割)を無意識的に行っているため、そもそも認識していない、覚えていないことの方が多く、顕在領域よりも潜在領域の方が圧倒的に大きいと言われています。このことを表現するために、下記のような氷山に喩えたモデルがよく使われます。
顕在ニーズはアンケートなどの手法で比較的容易に収集することが可能ですが、上の絵からもわかるように、そこで集められるのは全体の中のごく限られたニーズであるということは知っておきましょう。
2-2. 誰にとって潜在的なのか(ビジネス版の「ジョハリの窓」)
皆さんは、心理学で出てくる「ジョハリの窓」をご存知でしょうか?未知の自分に気づくフレームワークである、この「ジョハリの窓」を、ビジネスに当てはめたものが下記の『ビジネス版の「ジョハリの窓」』です。お客様(生活者)が気づいているか否か、自社が気づいているか否かの2軸によって、4つの分類が出てきます。
引用:Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2014年 08月号[雑誌] 60p
このうち最も高い価値を生み出す「未知の窓(お客様も自社も気づいていない)」に至るためには、お客様のことだけではなく、自社が何を把握していて、何を把握していないのか(まさに「ジョハリの窓」の考え方)を正しく知る必要があることがわかります。自社にとって、という視点も重要だということです。
2-3. すでに解決されているか(充足/未充足モデル)
下記は、生活者が気づいているか否か、すでに何らかの方法で充足されているか否かの2軸によって、分類したものになります。ここでは、わかりやすくするため、潜在ニーズを「先進的な一部の生活者だけが気づいている」ものとして考えています。
このうち、企業がねらいやすいのはBとCです。Bは「生活者が不満を述べているにもかかわらず、それを解決できる商品がない」あるいは「商品があっても生活者に知られていない」というケースで、わかりやすい例は電子機器の軽量化や充電不要といった、技術的に実現が難しいニーズです。商品開発力や販促力があればチャンスがある領域です。
Cは「生活者が自身の工夫や代替する他の商品などで、問題を解決してしまっている」ケースです。例えば、私は過去に、レジ袋をハンガーに引っ掛けて収納している主婦を観察したことがありますが、そのような日常におけるちょっとした工夫です。潜在ニーズの中では比較的、見つけやすいニーズだと思います。商品企画力があればチャンスがある領域です。
当たれば大きいのはDです。この領域は、音楽が備え付けのデッキで聴くものだった1979年当時に、「音楽を持ち運びたい」という潜在ニーズをもとに商品化し、新市場をつくったSONYのウォークマンなどがよく例に挙げられます。商品の企画・開発力に加え、市場を開拓していく力があればチャンスがある領域です。
3. 潜在ニーズをどのようにして発見するのか
潜在ニーズをビジネスの中で取り扱うためには、偶然による発見ではなく再現性のある発見方法が必要です。ここでは潜在ニーズを発見するための、3つの方法をご紹介します。
3-1. インタビューによる “そうそう型” 潜在ニーズの発見
UXデザインでもよく使われるインタビューは、1-2でご紹介した「引き出すことができる潜在ニーズ」を発見するのに有効です。インタビューはアンケートとは違って、その場で相手とのコミュニケーションが取れるため、相手に対して適切な気づきを与えることで、普段は思い出さない記憶や、自分一人では言語化が難しい情報を引き出すことが可能です。
そのような気づきを与えるうえで私が注意しているのは、下記の4つのポイントです。
- 具体的なエピソードを語ってもらう
(記憶を引き出しやすいため) - 気持ちは事実とセットで語ってもらう
(感情は記憶と違っていることが多く、言語化も難しいため) - 意見は理由とセットで語ってもらう
(意見は本音とのブレが出やすく、言語化も難しいため) - 興味を持って根掘り葉掘り聴く
(しゃべっているうちに連鎖的に思い出すことがよくあるため)
3-2. 行動観察による “へぇ型” 潜在ニーズの発見
1-3でご紹介した、本人が認識していない「仮説として導き出される潜在ニーズ」は、インタビューでは引き出すことができません。そこで有効なのが、行動観察です。本人の行動と言葉がズレているときや、本人にとっては当たり前の行動なのに第三者が見て違和感を感じるときが、こうした新しい仮説に気づく瞬間です。
行動観察については、下記の記事に詳しく書きましたので、ご参照ください。
「仮説として導き出される潜在ニーズ」の発見において特に重要なのは、下記のような、観察によって得られた事実を解釈する過程です。
Step1. フォーカスにもとづいて観察した事実を書き留める
Step2. 事実を複数人で解釈する
Step3. 解釈の前提となった常識や知見を反転させる
Step4. 発見されたニーズとは切り口の違う妥当性の高いニーズを発想する
3-3. ビッグデータの組み合わせによる潜在ニーズの発見
ビッグデータを分析することで、これまで気づかなかった事実を発見できることがあります。わかりやすいのは、人の購買行動です。例えば、「商品Aと商品Bが一緒に買われることが多い」「商品Cを買う人は半数以上が一度の買い物に1万円以上使っている」といった、直感的には見抜くことが難しい関係性が見えてきます。
ただし、一般的には、ビッグデータの分析によって「そういった事象がなぜ起きたか」を見出すことは、簡単ではありません。
商品やサービスの企画においては、何が起きたかという結果だけでなく、その事象が起こった背景や理由、またそれに遭遇した人たちの気持ちを知ることが、重要な発想の起点となります。それらの情報を補うためにも、ビッグデータは、上記のインタビューや行動観察と組み合わせて使っていくことをおすすめします。
- ビッグデータでは意外な事実を発見でき、それが新しい仮説につながることがある
- しかし、ビッグデータによって企画に必要な「それがなぜ起きたか」を見出すことは簡単ではない
- ビッグデータはインタビューや行動観察と組み合わせて使っていくべき
4. まとめ:潜在ニーズは発見することが可能なもの
潜在ニーズをビジネスに活用するためには、再現性のある発見方法が必要です。この記事でご紹介したインタビューや行動観察は、潜在ニーズの発見において一定の効果が実証されている手法です。あなたも導入してみてはいかがでしょうか。
商品やサービスを企画するために、自社でも「潜在ニーズを発見したい」と思った方はご相談に乗りますので、ぜひお問い合わせください。