今回は、TISI株式会社様の新規事業開発支援の事例をご紹介します。
地域向けのウォレットサービス「会津財布」を基盤に、デジタル地域通貨「会津コイン」の新規事業開発に取り組んでいた同社。構想はあるものの、「本当に使われるサービスになるのか」「地域にとって価値ある仕組みとは何か」といった問いを抱えながら、手探りの状態が続いていました。
そこで、弊社にご相談いただき約2年半にわたり、ユーザーインタビューを通じた顧客理解と、それに基づくサービスコンセプトの策定・検証を伴走型でご支援しました。
本記事では、担当の大森様に、顧客の声をどのように事業開発へ活かしていったのか、そのプロセスについてお話を伺いました。
| クライアント情報/ご担当者様情報 | |
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Table of Contents
ご依頼前の課題と成果
<背景/課題>
地域ウォレット「会津財布」とデジタル通貨「会津コイン」を中核とした新規事業に取り組む中で、サービスの全体設計が固まりきらず、仮説ベースでの検討が続いていました。地域住民や観光客にとって魅力的な体験をどう設計するか、さらに自治体や事業者に対してどのように価値を提示するかという二つの観点で課題を抱えており、それらを支える仮説検証の専門的な知見も十分とは言えない状況でした。そのため、複数の論点を横断しながら事業を前に進めていく必要がありました。
<パートナー選定理由>
こうした状況の中で、専門的に伴走できるパートナーとして、えそらを選定いただきました。過去のセミナーや別プロジェクトでの協働を通じて、実践的な壁打ちや質の高いリサーチ設計に対する手応えを感じていただいていたことが背景にあります。新規事業における不確実性の高い領域において、思考を整理しながら前進を支援できる点を評価いただき、信頼をもってご依頼いただきました。
<課題に対する成果>
プロジェクトでは、ユーザー・事業者双方へのインタビューを軸に顧客理解を深め、仮説の検証と再構築を継続的に実施しました。その結果、チーム内での意思決定に納得感が生まれ、サービスの方向性が明確化。さらに、ロイヤルユーザーの実像把握やデータ活用の価値検証を通じて、事業者の意思決定にも影響を与える成果が生まれました。現在ではユーザー数・加盟店数ともに大きく拡大し、事業は自走フェーズへと移行。顧客の声を起点に進める開発プロセスの有効性を実感いただく結果となりました。
プロジェクト概要
えそら合同会社 代表社員
喜多 竜二

インタビュー
地域キャッシュレスの構想を前に、少数チームが抱えた二つの壁
– はじめに、「会津財布」と「会津コイン」についておしえてください。

大森様:会津財布は、福島県会津地域を中心に展開しているスマートフォン向けの地域ウォレットで、キャッシュレス決済やクーポンなど地域の暮らしに関わるさまざまな機能を一つにまとめたサービスです。会津コインは、その中で使えるデジタル地域通貨で、住民の方を中心にご利用いただいております。
私は現在、この会津財布・会津コインを中核とするデジタル地域通貨事業において、サービス企画のとりまとめを担当しています。
– えそらに最初にご相談いただいた当時、会津財布・会津コイン事業はどのような状況でしたか。
大森様:会津財布のサービスをどう組み立てていくかを試行錯誤していた時期で、デジタル地域通貨の会津コインについては、まだ構想段階でした。コロナ禍でもありましたが、「その状況でもできることをやっていこう」という姿勢で仮説検証を進めていました。
出発点にあったのは、「実際に利用者の方に使っていただけないものであれば意味がない」という考え方です。地域の方に使っていただくことでデータが蓄積され、そのデータが地域の社会課題解決につながる。その切り口としてキャッシュレスを据えながら、地域に住む人たちが生活の中で楽しく豊かになれるサービスとはどういうものなのか、模索していた段階でした。
– 当時、特に強く感じていた課題はどのような点でしたか。
大森様:大きく2つの課題がありました。
一つは、実際にアプリを使う地域の住民の方に、どうすれば満足していただけるサービスにできるかという点です。もう一つは、サービスを一緒に組み立てていく地域の事業者や自治体、外郭団体の方々に、どう価値を感じていただけるかという点でした。
その2つに対して、どのようにアプローチしていくかを考えていくことが当時のテーマでした。
専門性と信頼を兼ね備えた、唯一無二のパートナーとの出会い
– 外部パートナーを入れようと思われた理由は何だったのでしょうか。
大森様:当時のチームは少数精鋭で運営していましたので、社内のリソースには限りがありました。
今でこそ地域・社会課題に特化した組織としてアドバンテージを持てるようになっていますが、当時は、新規事業における仮説検証や顧客体験設計において、専門性を持ったメンバーがなかなかおらず、BtoCかつ社会課題解決に資する事業というのは、TISI社内でも非常に珍しいケースでした。そのため、新規事業開発の中でも、特にUXデザイン領域に強みを持つ外部パートナーの必要性を感じていました。
– えそらを選んでいただいた決め手はどのような点でしたか。
大森様:以前、別の新規事業を担当していた時期に、新規事業のアイデア発想に関するえそらさんのセミナーに参加させていただいたのですが、セミナー参加後に行った喜多さんとのディスカッションでは、非常に有意義な壁打ちができたことが印象に残っていました。
その後、定量調査のご支援をいただく機会もあり、満足度の高い調査設計から非常に手応えを感じたことを覚えています。
そうしたご縁やこれまでの経験もあり、今回の会津財布・会津コイン事業でもぜひお願いしたいと思ったのが決め手です。今思うと、当時は弊社の探しているパートナー像にフィットするのは、えそらさん以外にいなかったように思います。
仮説だけで進んでいたチームに、リアルな声がもたらした転換点

えそら 喜多:2021年のご相談当時、会津財布事業には「人が集まってデータが集まれば価値が提供できるけれど、ではどうやって人を集めるのか」といういわゆる「鶏が先か、卵が先か」のような課題がありましたよね。
その突破口として、弊社からは顧客理解が重要だとお伝えしていましたが、他の事業開発チームにおいても、顧客理解は大事だと分かっていても、「実際に何が変わるのか」と感じている方も多いのが実情です。
今回、プロジェクトを通して顧客の声を聞き続けていただきましたが、大森さんの場合、顧客の声を聞くことは当時の課題解決にどうつながりましたか。
大森様:プロジェクトの初期、アプリのコアターゲットを定めようとしていた時期のことです。当時は30〜40代の女性をターゲットに置いて、行動パターンに関する情報を集めながら進めていたのですが、実際にはリアルな声がありませんでした。
これを起点に、事業者向けのインタビューにも取り組みました。市の補助金を活用しながら1年間かけて実施し、事業者の声だけでなく、その先のお客様の声まで拾っていく経験ができたことが、私たちにとって最も大きな収穫でした。
えそら 喜多:今回のインタビューでは、弊社のインタビュー支援サービスの「pivo」をご利用いただきました。
消費者・事業者を問わず、インタビューの中で印象に残っている言葉や気づきはありましたか。当時の検証の中で、仮説が当たっていてさらに解像度が上がった部分もあれば、少し方向性が違っていた、という部分もあったかと思います。「インタビューをやってよかった」と感じたエピソードがあればぜひ教えてください。
大森様:実際に事業者さんとの検証の中で、決済データがその店舗経営に活かされるかどうかという検証を行いました。その中で、事業者さんの意思決定に実際に影響を及ぼした場面があったのですが、その時は本当に驚きました。店舗の方が、私たちのアプリを通じて生まれた決済データを見て、「このような検証結果なら、こうしよう」という判断をされたんです。データが実際の経営判断に結びついた瞬間で、取り組んできて本当に良かったと感じました。
えそら 喜多: 仮説の検証の中で、実際にその通り行動を変えていただいた方がいたということですね。チームとしてもとても自信になる瞬間だったかと思います。
定量では見えなかったロイヤルユーザーの実像と事業への示唆
えそら 喜多:先ほど、顧客の声を聞くことで社内での話も通しやすくなったとおっしゃっていましたが、実際に社内の意思決定にその声をどのように活用されていたのでしょうか。
大森様: インタビューは社内への還元という意味でも大きな意義がありました。それまで開発やバックヤードを担当するメンバーほど、お客様の情報がなかなか取れないというもどかしさがありましたが、インタビューの内容が開発にも活かされるよう情報共有を徹底したことは、非常に良かったと思っています。
特に優先度を上げたのは、ロイヤルユーザーの行動や思いを把握することでした。定量データでは属性や決済履歴しか分からず、その方たちがどういう人なのかを掘り下げるには、インタビューしかありませんでした。
実際に話を聞いてみると、よく使ってくださっている方ほど自分の体験を積極的に話してくださいました。アプリでの体験を周囲に広げたいという思いをお持ちの方が多く、「職場の人にもお友達にも話しているのよ」とおっしゃる方もいらっしゃいました。そういった熱量のあるユーザーの存在を直接感じられたことは、本当に良い取り組みだったと実感しています。
えそら 喜多:立ち上げから少人数で取り組んでいるチームというのは、インタビューの優先順位がどうしても下がりがちで、「まだユーザーが少ないから」と後回しにしてしまうケースが少なくありません。ただ、その少ない中にこそ事業への期待や価値を強く感じてくださっているコアなユーザーがいるとすれば、そこをしっかりと育てていくことが事業の成長につながります。大森さんにはまさにそれを体現していただけたと感じています。
大森様:そうですね。つい最近、会津財布アプリに地域通貨会津コインもまだなかった時期から使い続けてくださっている方にインタビューする機会がありました。その時は、あの頃からずっと使い続けてくださっているんだという、感動がありましたね。
自己流では気づけなかった、本音を引き出す「問い」の作り方
– もし外部パートナーなしで大森さんお一人で進めていたとしたら、どのような違いがあったと思いますか。
大森様:単独では難しかったと思います。ストーリーボードについては、作り方はセミナーで学ばせていただいたので実践できたとしても、その有効性を検証する調査や、重要度・緊急度といった観点での評価設計は、自社単独では進められなかったと思います。
また、1人だと他の案件も並行して入ってきますので、どうしてもこのプロジェクトの優先順位を下げてしまいがちだったと思います。えそらさんと伴走するというプロジェクトの枠組みがあったからこそ、常に次のアクションを明確にしていただき、着実に前に進めることができました。加盟店向けのデータ利活用の仮説検証は、そういった伴走がなければ予定通りには進まなかったと思います。

えそら 喜多:伴走においては、テクニック的な部分ももちろんありますが、それ以上に「前に進める力」が重要だと考えています。「これをやれば確実に前に進む」という正解があるわけではないので、自分たちでそれを作るしかない。だからこそ、伴走の際はペースメーカーとしての役割を意識しています。
– 今回の伴走期間の中で、一番価値を感じていただいた点を一つ挙げるとしたら何でしょうか。
大森様:最も大きかったのは、「聞き出し方」でした。
インタビューの手法、アンケート設計、スクリーニングの考え方、そしてストーリーボードを活用した表現の仕方まで、幅広く学ばせていただきました。その中でも特に大きかったのは、インサイトを引き出すための掘り下げ方でした。
それまでは自己流で取り組んでいましたが、インサイトに切り込むような聞き方は意識できていませんでした。直接言葉にされなくても、インタビュー全体を通じるとその方の本質的な思いが見えてくる。そして、それを言語化して関係者に伝えることの重要性を、この取り組みを通じて実感しました。そこを意識して実践できるようになったことが、最も大きな変化でした。
ユーザー1万5,000人超を達成。サービスのR&Dを続ける現在地

– 現在、会津コイン事業はどのようなフェーズにあり、利用者数や加盟店数はどのくらい伸びましたか。
大森様:すでに事業化している状態で、収益を得ながら自走を始めています。ただ、事業としてはこれからも新規サービスを作り続けながら充実させていきます。単に広げるだけでなく、サービスのR&Dを継続しながら発展させていく段階にあり、まだまだ途上といったところです。
会津コインのユーザーは現在1万5,000人(2026年5月現在)を超え、当初の数百人から大きく成長しました。加盟店についても600店舗を超えており、当時と比較すると事業規模は大幅に拡大しています。
– プロジェクトを通じて、大森さん自身が一番大きく変わったと感じる点はどこでしょうか。
大森様:全てが変わったと言いたいくらいです。その中で一番大きいのは、会津コインという名前が地域に浸透してきたことです。以前は「会津コインとは何か」という説明から始めていましたが、今はそれが必要なくなりましたね。
– 最後に、同じように新規事業に取り組まれている方々へ、メッセージをいただけますか。
大森様:事業はまだまだ試行錯誤をしながら進んでいる状態ですが、悩んだ時の拠り所は、やはりお客様の声を聞くことに尽きると思っています。
コンセプトに立ち返ることはもちろん大切ですが、自分たちの方向性を確かめるためには、やはりお客様の声を聞くことが一番だとこの取り組みを通じて実感しました。
もし迷いが生じたときには、ぜひ「お客様の声」を聞いてみてください。
貴重なお話をありがとうございました!
えそらLLCでは、新規事業における伴走支援を行なっております。顧客理解をベースとした新規事業開発にご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。













