ストーリーボードを使ったUXデザインのためのアイデア発想法とは?

ストーリーボードを使ったUXデザインのためのアイデア発想法とは?

UXデザインにおいて、革新的な製品やサービスのアイデアはどこから湧いてくるのでしょうか?

新規事業の開発や事業の継続成長のためのUXデザインでは特に、偶然のひらめきや個人の引き出しに頼るのではなく、再現性の高いアイデア発想法が求められます。

本日は、0→1のアイデア発想が求められるUXデザインにおける必須ツールとも言える「ストーリーボード」を使ったアイデア発想法をご紹介します。

目次

UXデザインにおけるストーリーボードの基礎

まずは、「ストーリーボード」とは何か聞いたことがない方のために、基礎をおさらいしておきましょう。

ストーリーボードとは

ストーリーボードは、あなたの製品・サービスを通してユーザーがどのような体験をするのかを、一つのストーリーとして描写したものです。汎用性が高く様々な場面で使えるツールですが、私たちはこれを、UXデザインにおいて最も重要な「ユーザーが感じる価値」を視覚化するためのツールとして使っています。

ストーリーボードのサンプル

ストーリーボードでは、1つの体験を複数のコマに分割して時系列で表現します。各コマは、そのシーンを象徴する「イラスト」と、状況や心境を説明する「ナレーション」や「セリフ」によって構成されます。

コマ数に決まりはありませんが、「ユーザーが感じる価値」にフォーカスしたい場合、私は4コマ(各コマの役割は後述)をおすすめしています。コマ数の制限によって、自然と「価値を伝えるのに最低限なくてはならないシーン」にフォーカスすることができるためです。

どのようなタイミングでストーリーボードを描くのか

UXデザインにおいて最も重要かつ難しいのは、自分たちが実現しようとしている価値が “本物” なのかを見極めることです。特に、「こんな製品・サービスにしてみてはどうか」というアイデアレベルの段階では、そのアイデアが持つ価値が明確になっておらず、チームメンバーそれぞれが異なった受け取り方をしているケースも多いため、議論の対象にすることさえ困難を極めます。

ストーリーボードは、このようなアイデア発想直後の混沌とした状況において特に、その威力を発揮します。はじめは漠然としている製品・サービスが提供する価値を、ストーリーボードを使って可視化することで、「ユーザーにとって何がうれしいのか」を具体的にイメージできるようになり、それを第三者と共有したり、評価、改善したりすることができるようになるのです。

なぜ、ストーリーボードなのか?

私がストーリーボードはUXデザインの必須ツールだと考える理由をご説明します。

理由1. アイデアを具体化するため

ブレインストーミングなどでアイデア発想をしたことがある方は経験されたことがあると思いますが、そのような場で出る初期のアイデアは、断片的だったり表面的だったりするものが大半です。

ストーリーボードを描くためには、1つのストーリーを創り上げなければなりません。断片的なシーンの前後には何が来るのかといった連続性や、どうしてそのような展開になるのかといった理由が読み取れないと、ストーリーとして成立しないため、自然とそれらの “行間” をデザインすることにつながります。

理由2. 体験が生み出す価値にフォーカスするため

UXデザインでは、対象となる体験を価値、行動、操作の3つのレイヤーに分けて考えることがあります。これら3つは順番に、抽象度の高いレイヤーから具体度の高いレイヤーに、言い換えると目的から手段になっていくイメージですが、最も重要なのは言うまでもなく、目的である「価値」のレイヤーです。

ストーリーボード(特に、4コマなどの制限がついたもの)は、この「価値」のレイヤーにフォーカスするのに向いています。コマ数の制限によって、操作や行動といったディテールに寄るのではなく、「結局、ユーザーにとって何がうれしいのか」という高い視点を保つことができるからです。

理由3. ソリューション検討にユーザー視点を持ち込むため

UXデザインプロジェクトとしてユーザーリサーチをしっかりとやってきたチームであっても、ソリューションの検討に入ったとたんに技術視点になってしまうことがあります。技術に詳しいメンバーほど、この傾向が強まりますが、それは自分の得意分野に近くなればなるほど、(普段は意識することのない)自らの視点を変えることが難しくなるためです。

ストーリーボードでは、技術の中身にフォーカスするのではなく、その技術によって何ができるのか、すなわち登場人物であるユーザーの視点で見たときにどのような良いことが起きるのかを描写します。これにより、特に意識しなくても、ソリューションアイデアをユーザー視点で検討することができるようになります。

理由4. アイデアを第三者と共有しやすくするため

通常、「こんな製品・サービスにしてみてはどうか」といった初期段階のアイデアは漠然としていて、聞き手によっていかようにでも異なる解釈が可能です。そのため、「そのアイデアいいね!」と皆が賛同して始まったにもかかわらず、蓋をあけてみると個々の認識がバラバラだったということが、現実には多々起こり得ます。

ストーリーボードは、そのアイデアを実現することでユーザーが何を体験するのかを視覚的に表します。

  • ユーザーはどのような状況や環境にいるのか
  • ユーザーは何に困っているのか
  • ユーザーはその製品・サービスを使って何をするのか
  • ユーザーは結果的に何を感じるのか

これらを具体化することで、漠然としがちなアイデアのイメージを第三者と共有することが可能になります。

理由5. アイデアを検証可能にするため

一つのアイデアの良し悪しを見極めるのは容易ではありません。それが革新的なアイデアであればあるほど、具体的なイメージがわかず、「何となく良さそうではあるけど、実際に体験してみないとわからないよね」という状態に陥ります。

ストーリーボードは、アイデアを疑似体験させてくれるツールです。ストーリーボードに描かれた体験に「共感できるか」を聞くことで、アイデアを評価できるようになります。ストーリーボードの時点で魅力を感じない体験は、それを形にしても決して良いものにはなりません。この時点でしっかりと評価し、磨き込んでおくことが重要になるでしょう。

理由6. 事業における意思決定を支援するため

UXデザインは、ビジネスニーズとユーザーニーズの折り合う地点を探る活動です。大抵の企業では、ビジネスニーズの方が身近にあって考えやすいため、ビジネスニーズを起点に考え始めてしまいがちですが、気づくとユーザーニーズが置き去りになっていた、というケースも珍しくありません。

ストーリーボードに描かれるのは、ユーザーにとってうれしい体験です。ユーザー側から見たときにはずれのない選択肢をテーブルの上に並べて、ビジネス視点で絞り込んでいくことで、自然とビジネスニーズとユーザーニーズ折り合う地点を捉えることができます。

ストーリーボードの作り方(前半〜アイデアの幅出し)

本記事では、私たちがよく作っている4コマ形式のストーリーボードの作り方をご紹介します。前半は、ストーリーボードを描くための準備を行います。

STEP1. ストーリーボードの流れを理解する

そのアイデアによって、ユーザーが抱える問題がどのように解決されるのかを4コマで表現します。①→④→②→③の順に考えていくところがポイントです。

ストーリーボードの流れを理解する

  • ①コマ目:何が問題で(ニーズ)
  • ②〜③コマ目:それをどうやって解決して(ソリューション)
  • ④コマ目:結果、どうなったか(ゴール)

STEP2. 解決すべき問題を定義する(①)

アイデア発想の前提として、「ユーザーが置かれている状況や抱えている問題」を整理します。整理の仕方は任意ですが、下記3点を意識しておくと良いでしょう。

  1. 想像ではなく事実にもとづいている
  2. 重要な問題のパターンが洗い出されている
  3. 各パターンで、次の行動につながる心理が見えている

私たちはよく、これらを「キャスト」として整理しています。ワークショップのインプットとしても使いやすいのでおすすめです。キャストの作り方については、下記の記事を参考にしてください。

解決すべき問題を定義する

STEP3. 最高の体験を発想する(④)

STEP2で定義した問題に対して、「最高の体験」を発想します。ただの問題解決でなく、新しい価値を生み出すアイデアを発想するには、ここでどれだけ “ジャンプ” できるかがポイントになります。

  • これ以上ない体験であること(魅力)
  • これまでにない体験であること(新規性)
  • 既存の常識をくつがえす体験であること(驚き)

この時点ではまだ漠然としていて構いません。上記の観点をふまえて、「最終的に何が起きて、ユーザーは何と言って喜ぶのか」を端的に表現しましょう。

最高の体験を発想する

STEP4. アイデアのネタ出しをする(②〜③)

STEP3で発想した最高の体験を実現するための「ソリューション」を発想します。機会領域を探るために、ここでしっかりとアイデアのネタ出しをしておくことが重要です。ネタ出しのためのアイデア発想においては、多様性、視点、ひらめきの3点がポイントになるでしょう。

  • 多様なバックグラウンドを持つ人たちと一緒にアイデア発想を行う(多様性)
  • 視点の異なる問題パターンをベースにアイデア発想を行う(視点)
  • 普段と違う場所や環境でアイデア発想を行う(ひらめき)

アイデアは直感で絞り込みます。この段階では、アイデアそのものというよりも、方向性を見出すことに重きを置くため、アイデアを良いと感じた理由の分析に時間をかけましょう。

アイデアの幅出しをする

STEP5. アイデアのバリエーションを考える(②〜③)

STEP4の結果をインプットにアイデアの「バリエーション」を考えます。「表面的なアイデアやありきたりなアイデアしか出ない」という状況を抜け出すために、1つのゴールを実現するアイデアの周辺にある様々なバリエーションを発想します。

アイデア発想の主な切り口となるのは、1)技術、2)リソース、3)コンテキストです。現実的な切り口だけでなく、ある程度極端に条件を振ってみることをおすすめします。

アイデアのバリエーションを考える

ストーリーボードの作り方(後半〜アイデアの磨き込み)

後半は、いよいよストーリーボードの作成に入ります。手持ちのアイデアがある場合は、ここから始めても構いません。

STEP6. ストーリーの構成をテキスト化する

STEP1でお伝えした通り、4コマ形式のストーリーボードの場合、各コマの役割は、①コマ目:何が問題で、②〜③コマ目:それをどうやって解決して、④コマ目:結果、どうなったか、を基準に考えます。それぞれのコマで、何を説明するかを短いテキストで書き起こしていきましょう。

テキスト構成を書き起こす際のチェックポイントは下記の4点です。 

  • ユーザーが認識していない問題や仕組みを説明し過ぎていないか?
  • ユーザーの次の行動につながる心理がわかるか?
  • 4コマの間にユーザーの心理がどのように変わっていったのかがわかるか?
  • ユーザーの心理を変えたものは何だったのかがわかるか?

一つのストーリーを成立させるために、自然とこれらの “行間” をデザインしていくことになります。

ストーリーの構成をテキスト化する

ワークシートをダウンロードする(PDF / 1.18MB)

STEP7. ストーリーボードとしてシートに描き起こす

STEP6で作成したテキスト構成に沿って、ストーリーボードを描きます。各コマの構成要素は、そのシーンを象徴する「イラスト」と、状況や心境を説明する「ナレーション」や「セリフ」です。

一通り描き終えたら、下記のポイントをセルフチェックしましょう。

  • ユーザーにとって何がうれしいのかを読み取ることができるか?
  • ユーザーにとって魅力、新規性、驚きを感じさせるストーリーだと感じられるか?
  • 一つのストーリーとして違和感を感じるところはないか?

ストーリーボードとしてシートに描き起こす

STEP8. ストーリーボードから学び、アイデアを磨き込む

ストーリーボードは、作品ではなく、学びとデザインのためのツールです。よって、絵が得意なデザイナーだけが描くのではなく、企画に関与する全てのメンバーが描いてお互いにレビューすることをおすすめします。アイデアは同じであっても、各メンバーのストーリーボードは少しずつ(あるいは大きく)違ってくるはずで、ここに重要な学びや発想の余地が残されているからです。

メンバー間のレビューが終わったら、ストーリーボードをいったん清書して、ユーザーにも見てもらいましょう。ここで得られる「良さそうですね。でも私は使わないかな…」といった反応は、ユーザーがそのアイデアを実現した製品・サービスを手にしたときの反応と強い相関があります。

ストーリーボードから学び、アイデアを磨き込む

価値のレイヤーでユーザーに刺さらないアイデアは、それを具体化した行動や操作のレイヤーで挽回しようと思っても、なかなか難しいことが多いです。ストーリーボードの時点で、「今すぐほしい!」「早く本物を見たい!」という反応を得ることを目指して、アイデアを磨き込んでいきましょう。

STEP9. ストーリーボードを活用する

ストーリーボードは、以下のような用途で活用できます。

  • アイデアを第三者と共有するコミュニケーションツールとして
  • アイデアを検証し磨き上げるデザインツールとして
  • アイデアの方向性を絞る意思決定ツールとして
  • アイデアをシナリオなどで具体化していく際のインプットとして

これらのうち、事業視点では「意思決定ツール」としての活用が気になるところかと思います。「こんな製品・サービスにしてみてはどうか」といった初期段階のアイデアは、具体性に乏しく検証が難しいのですが、ストーリーボード化することで、良し悪しの評価が可能になります。どのアイデアへの反応が最も良いかを定量化することで、アイデアの方向性を絞る意思決定の裏付けとしても使うことができるでしょう。

ストーリーボードの導入にあたってのFAQ

最後に、ストーリーボード導入にあたってよくあるご質問にお答えします。

Q. 絵が苦手です…私でもストーリーボードを描けますか?

ストーリーボードに必要なのは、上手い絵を描くスキルではなく、コミュニケーションとして情報が相手に伝わる絵を描くスキルです。これは、どちらかというと、絵そのものというよりは構成の問題であり、絵を描く前の準備段階が一番大事だということを意味しています。そのことがわかっていれば、絵は苦手でも全く問題ありません。

ここまで見てきたように、ストーリーボードを作成する工程は、「何を(STEP1〜6)」「どう表現するか(STEP7)」の2つに大きく分かれますが、絵のスキルが要求されるのは「どう表現するか(STEP7)」のみで、重要な工程ではあるものの、ごく一部に過ぎません。メインは「ユーザーに価値をどう伝えるのか」という構成を考えるところになるので、絵が苦手なあなたでも(私もその一人です)十分に力を発揮できるでしょう。

Q. プロトタイピングと何が違うのですか?UI をさっさと描いた方が良いのでは?

ストーリーボードを使ったアイデアの磨き込み(=ストーリーボーディング)は、大きな意味ではプロトタイピングの一種で、いずれも「作りながら考える」という考え方にもとづいています。

違いは、プロトタイピングは特定のアイデアの精度を高めていくものであるのに対し、ストーリーボーディングはアイデアの方向性を見定めるためのものであるという点です。すでに特定のアイデアがある場合は、一気にプロトタイピングに進んでもらって構いません。一方、広い領域の中でまだどこを攻めて良いか見えていない場合は、ストーリーボーディングから始めることをおすすめします。

Q. これを1回やれば本当に良いアイデアが出るんでしょうか?

難易度は上がりますが、各STEPの精度を高めて、1回のストーリーボーディングで優れたアイデアを量産できるように工夫することは可能です。ただし、私自身は、アイデア出しは1回のチャンスで場当たり的な成果を狙うものではなく、企業で定常的に取り組むべき地道な活動だと考えています。

0→1のアイデア発想において、革新的なアイデアは簡単には見つかりません。また、たまたま見つかったとしても、それをそのタイミングで実現できる保証はありません。月に1回1時間で良いので、定期的にアイデア出しを行い、優れたアイデアをストックしていくことで、企業としての企画力および実行力は格段に向上すると思います。

まとめ:アイデア発想力はマネジメントできる

ストーリーボードを使ったアイデア発想は、通常の1回のブレストでは出せないような発想の幅と深さを出すことができます。UXデザインにおいて最も重要な「体験が生み出す価値」にフォーカスできるツールとして、貴社のプロジェクトにも取り入れてみてはいかがでしょうか。

チームの発想力、企画力を向上させたいとお悩みのプロジェクトマネージャーの方はご相談に乗りますので、ぜひお問い合わせください。

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この記事を書いた人

喜多 竜二

えそら合同会社 代表社員/HCD-Net認定人間中心設計専門家

2009年にUXデザインコンサルティングを専門とする「えそら合同会社」を設立、これまでに新規事業をはじめとする100を超える事業を支援してきた。自身は行動観察をはじめとするエスノグラフィを専門とし、生活者に対する共感を出発点としたユニークなアイデア発想の場づくりや、UXデザインの組織導入に力を入れている。東京大学工学部卒業、シドニー工科大学大学院修了。

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