UXデザインにおける行動観察とは?2つのマーケティング事例に見る企画への活用法

UXデザインにおける行動観察とは?2つのマーケティング事例に見るデザインへの活かし方

新しい製品やサービスを企画するとき、それを利用するユーザーのニーズをどう捉えるかが重要な課題になります。ユーザーのニーズを読み間違えた製品やサービスが大きく成功することは、あり得ないからです。

あなたは、ユーザーの理解に極めて有効な「行動観察」と呼ばれる手法を聞いたことがありますか?

本日は、行動観察の基礎とあわせて、この手法がビジネスの現場において現在どのように使われているのか、UXデザインにどう活用できるのかをご紹介します。

1. UXデザインにおける行動観察の基本

UXデザインは、「ユーザーを知ること」から全てが始まります。用途に応じて様々なユーザーリサーチを行いますが、この記事で取り上げる行動観察は、それらのリサーチの中でも特に汎用性と効果が高く、UXデザインプロジェクトの至るところで登場します。UXデザインを進めるうえで、必須の手法・スキルの一つだと言えるのではないでしょうか。

1-1. 行動観察とは

行動観察とは、「対象となる体験が発生している現場に足を運び、そこで起きていることを観察する」定性調査手法の一種です。例えば、改札の切符販売機をデザインするならば駅に行き、家電量販店の接客を改善するならば売り場に行き、そこでの人々やまわりの様子を観察します。そして、観察によって得られた事実を解釈、分析することで、「こういうニーズがあるのではないか」という新しい仮説を導出します。

選ばれる製品、すなわち売れる商品をつくるためには、人々のニーズを正しく捉えることが必要です。意図した体験をデザインし、それをサービスとして実現するためには、人々の行動の背後にある隠れた心理を知らなければなりません。そのために行われるのが行動観察です。

  • 新しい仮説生成のための定性調査手法の一種
  • 対象となる体験が発生している現場に足を運び、そこで起きていることを観察する
  • 人々の行動の背後にある隠れた心理を知るために行われる

1-2. どのようなときに行動観察をするのか

UXデザインにおける行動観察は、主に2つのケースで使われます。

一つ目は、新しい製品やサービスの企画において、0→1のアイデア発想が求められるようなケースです。その製品やサービスにおいて解決すべき本質的な問題とは何か。先ほどの改札の例で言うなら、未来の改札や駅には何が求められるのか。解くべき「問い」そのものを、行動観察によって探索します。

二つ目は、製品やサービスのコンセプトを検証、改善するケースです。解くべき問いに対する「答え」としての製品やサービスの良さが、意図した通りにユーザーに伝わっているのか。伝わってないとすれば、何が問題なのか。実際に製品やサービスを使っている様子を行動観察し、改善につながる学びを得ます。

  • 新しい製品やサービスの企画において、0→1のアイデア発想が求められるようなケース(問いの探索)
  • 製品やサービスのコンセプトを検証、改善するケース(答えの探索)

1-3. なぜ、行動観察なのか

従来のマーケティングにおいてよく行われていた、一般消費者に「何がほしいか」や「何に困っているか」を尋ねるリサーチは、以前のように機能しなくなっています。モノやサービスが溢れている今の時代、消費者は特に困っていない、あるいは気づいていないので、答えようがないからです。

また、これからの製品やサービスの企画は、皆が気づいている問題を解決するようなものだけでなく、いかに世に新しい価値を提案するようなものを生み出せるかが、ますます重要な要素になるでしょう。この課題に立ち向かうべく、人に聞くのではなく、観ることを通して、まだ誰も気づいていない新しい価値につながるような仮説を生み出そうとするアプローチが、行動観察です。

  • 一般消費者に「何がほしいか」を尋ねるリサーチは、以前のように機能しない
  • 人を観ること通して、まだ誰も気づいていない新しい価値につながる仮説を生み出す

参考:ユーザーニーズを語るなら知っておきたい!2種類の潜在ニーズとは?

2. 行動観察をマーケティングに活用した事例

行動観察を具体的にイメージしていただくため、ここでは、行動観察をマーケティングに活用することで大きな成果につながった、私のお気に入りの事例を2つご紹介します。

これらをお読みいただくと「え、たったそれだけのことで?」と感じるかもしれません。行動観察による発見は、わかってしまえば「当たり前」のことのように思えてしまいます。しかし、発見当時は、「別の当たり前」が存在していて、「新しい当たり前」には誰も気づいていなかったという事実があるのです。

事例1. 味の素 ギョーザ(行動観察が常識を疑うきっかけに)

事例1. 味の素 ギョーザ(行動観察が常識を疑うきっかけに)

皆さんは、2012年に味の素の冷凍食品「ギョーザ」がリニューアルされたことをご存知でしょうか?1972年の発売以降、すでに不動の地位を築いていた「ギョーザ」ですが、リニューアルした2012年には、前年度比130%の130億円の売上を記録。「トップブランドは爆発的に伸びない」というマーケティング業界の常識を覆すことになります。

商品リニューアルに向けた改良点を探るために、開発チームが行ったのが行動観察でした。主婦に家庭で使っているフライパンを持参してもらい、目の前で「ギョーザ」を調理してもらったのです。

そこで発見されたのが、「水を目分量でフライパンに注いでいた」という事実でした。水の量を間違えると、パリッとおいしく焼けません。パッケージ裏面には、トレイで適量の水が計れることが記載されていましたが、まったく読まれていませんでした。お客さまに届けたいと思っていたパリッとした食感が、実際には届けられていないのではないか…。この気づきをもとに、開発チームは一つの結論にたどりつきます。

「最初から水を計らなくてもよい商品設計にすればいいのではないか」

それは、「餃子を焼くときは、水を入れてフタをする」という固定観念の存在に気づいた瞬間でもあったはずです。当時、誰も疑うことをしなかったこの常識を覆すために、どうすれば良いのか。その後、試行錯誤を重ね、餃子の皮に油と水を染み込ませ、加熱するとそれらの成分が溶け出し適度な水分で蒸し上げることができる技術の開発に成功し、油も水もいらずにパリッと焼ける現在の「ギョーザ」が誕生したのです。

出典:「ギョーザ」―ハッとした瞬間、驚き与える商品が生まれた|飲食品でヒット商品をつくる|J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト]

事例2. LIXIL ひろまるコンロ(行動観察で当たり前の日常から発見)

LIXIL ひろまるコンロ(行動観察で当たり前の日常から発見)出典:株式会社 LIXIL グループLIXIL ビジネス情報

こちらもキッチンに関わるお話です。新しいコンロの企画にあたり、LIXILの研究チームは、家庭でガスコンロを使っている10人の自宅に訪問し、そこでの調理行動を1軒につき3時間ほど、観察しました。そこでガスコンロの使い方について発見したのは、下記のような事実でした。

「コンロ上に置いた複数の鍋を入れ替えながら窮屈に調理をしている」

「調理中、鍋やフライパンでコンロ上が混雑してきても、使っていないやかんがコンロ上にある」

「手前に大きな鍋を置くと、奥のバーナーが使いづらそう」

主婦の皆さんであれば、「あるある!」と思うことばかりではないでしょうか。そこがポイントです。すなわち、主婦の立場からすれば当たり前の日常であり、最初は「ちょっと窮屈だな」と思っていたとしても、慣れや工夫でそれを克服してしまうと、自分の意識には上がってこなくなります。こうした「あるある!」はアンケートやインタビューでは、思った以上に引き出しにくいのです。

これらの見過ごされがちな発見を丁寧にすくい上げ、「広々とした天板の上の仮置きスペースにやかんが置ける」「バーナーの間隔が広いので、大きなフライパンを乗せても3口同時調理ができる」などの特長を商品設計に落とし込むことで誕生したのが、人気の「ひろまるコンロ」です。

出典:「行動観察」で利用者の隠れたニーズを発見!LIXIL「ひろまるコンロ」:大阪ガス通信

もっと行動観察の事例を見てみたい方におすすめの本

ここでは行動観察の事例として2つだけご紹介しましたが、もっと見てみたいという方には下記の書籍がおすすめです。

3. UXデザインにおける行動観察の実践

UXデザインプロジェクトに行動観察を導入するとして、誰のどのような行動を観察すれば良いのでしょうか。また、他のユーザーリサーチ手法とどのような違いがあるのでしょうか。

3-1. 誰の行動を観察するのか

1-2でご紹介した「問いの探索」「答えの探索」のどちらのケースかによって、対象者が変わります。

問いの探索では、市場でまだほとんどの人たちが気づいていない潜在的な問題を探索するために、エクストリームユーザー(極端な行動パターン、問題意識やこだわり、環境を持った人たちのこと)を対象とすることが多くなります。自分たちの常識や固定観念からは思いもよらない気づきを得るために、意図的に、極端に偏った、そして自分たちのコネクションから遠い人たちの行動を観察します。

エクストリームユーザーについては、下記の記事に詳しく書きましたので、ご参照ください。

参考:UXデザインプロジェクトにおけるエクストリームユーザー調査の進め方

一方、答えの探索では、その製品やサービスの利用経験者が対象となります。さらに、同じ利用経験者でも、初心者とベテランで行動やニーズが大きく変わることがわかっている場合は、これらを分けて考えます。先ほどの改札の例で言うなら、東京で10年暮らしている人と、田舎から上京したばかりの人では、東京の鉄道網に対する知識がまったく違い、行動も大きく変わることが予想されるため、別々に行動観察します。

また、答えの探索の中でも、初めて利用するときにどのような行動を取るかを見たい場合は、まだ利用経験のないターゲットユーザーや、その製品やサービスに対する利用動機のある人たちとして、競合製品のユーザーを対象にするようなこともあります。このように、何を明らかにしたいかによって対象はまったく変わりますので、目的に応じて適切な対象を設定するようにしましょう。

  • 問いの探索フェーズでは、エクストリームユーザーを対象に
  • 答えの探索フェーズでは、製品やサービスの利用経験者、ターゲットや競合製品ユーザーを対象に

3-2. どんな行動を観察するのか

1-2でご紹介した「問いの探索」「答えの探索」のどちらのケースかによって、どんな行動を観察するのかも変わります。

問いの探索は、仮説そのものを生み出すために行うため、仮説ではなく「◯◯を普段はどのようにしているのか」というフォーカスを決めて、行動観察に臨みます。先ほどの改札の例で言うなら「初めて使う駅に来たときに、どのように切符を買うのか」といった問いを立てることになります。中でも、私たちが特に注目するのは、人の「習慣(繰り返しと学習によって自動化された一連の行動)」です。

人は自身の行動の大半(私は脳科学者ではないので正しい割合はわかりませんが、7〜9割くらいの数字をよく目にします)を無意識のうちに行っていると言われています。人の行動が習慣化される過程においては、その人が持つ様々なニーズや葛藤、判断を伴うはずですが、ひとたび習慣化が完了してしまうと、それらは本人の中で意識されなくなるという性質があります。

  • 習慣化されると、ニーズや判断が意識されなくなる(認識の壁)
  • 習慣は、無意識的に行われるため、いちいち詳細を覚えていない(記憶の壁)
  • 習慣は、自分にとって当たり前になり過ぎて、自分でもうまく説明できない(言語化の壁)

ただ、本人が意識しなくなっただけで、そこにニーズがないわけではないのです。よく「習慣の中には、本人が気づいていない、すなわち潜在ニーズが隠れている」と言われる所以がここにあります。

一方、答えの探索においては、いわゆる仮説検証の考え方で、こちらから特定の状況と目標を与えて、それを遂行するうえで何か問題がないかを観察することが多くなります。Webサイトやアプリ領域で盛んに行われている「ユーザーテスト」はこの後者の考え方に近いものになります。

3-3. 行動観察とアンケートの違い(定性調査 vs 定量調査)

リサーチというとアンケートを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。アンケートは、行動や意見の量的な傾向を知りたいときや、皆が気づいているような顕在化したニーズを集めるときなどに非常に有用です。一方で、いわゆる潜在ニーズの発見は苦手だと言われています。

その理由は、アンケートに回答してもらえるのは、その人が1)認識している、2)記憶している、3)言語化できることに限られるからです。3-2でもお話した通り、人は自身の行動の大半を無意識のうちに行っているので、アンケートで取れる自由記述コメントは、どうしても限定的になってしまいます。

  • アンケートは、行動や意見の量的な傾向を知りたいときに有用
  • アンケートは、皆が気づいているような顕在化したニーズを集めるときにも有用
  • アンケートは、潜在ニーズの発見は苦手

3-4. 行動観察とインタビューの違い(外から vs 内から知る)

行動観察と、同じく定性調査手法の一つであるインタビューとは何が違うのでしょうか。インタビューは、人を内から知る方法(行動観察は外から知る方法)と言われますが、その人の言葉を通して情報を得ることになるため、多かれ少なかれ3-2でご紹介した、認識、記憶、言語化の壁の影響を受けます。

出典:エスノグラフィック・デザインアプローチ(25P、「観察」と「インタビュー」の相補関係)

ただ、インタビューはアンケートとは違って、その場で相手とのコミュニケーションが取れるため、相手に対して適切な気づきを与えることで、普段は思い出さない記憶や、自分一人では言語化が難しい情報を引き出すことが可能です。

また、企画やデザインするうえで重要となる、本人の認識や思い出といった外から見ただけではわからない主観的な情報を引き出すことができるのは、行動観察にはないインタビューの大きな利点です。行動観察とインタビューは相互に補完する関係にあるため、実際には組み合わせて使うのが望ましいでしょう。

  • インタビューは、適切な気づきを与えることで、潜在ニーズを引き出せる可能性がある
  • インタビューは、本人の認識や思い出など、外から見ただけではわからない主観的な情報を引き出せる
  • インタビューは、行動観察と相互補完の関係にあるので、組み合わせて使うのが望ましい

3-5. 行動観察とエスノグラフィの関係

私は学生のときに、エスノグラフィを文化人類学における民族理解のための活動(あるいはその結果である民族誌)として学びました。エスノグラフィでは、研究対象となる集団と生活をともにし、自らの経験を通してそこにある文化や人々を理解しようとします。その性質上、行動観察を伴うものなので、エスノグラフィと行動観察は混同されがちですが、目的と手段の関係にあってイコールではありません。

また、民族理解を目的としたエスノグラフィの中で行う行動観察と、価値提案を目的としたUXデザインの中で行う行動観察には、その役割に明確な違いがあります。前者ではより正しい理解と記述が求められ、後者では(正しい理解は大切ですが、それよりも)より発想の起点になることが求められます。そのため、それぞれの後工程も大きく違います。

  • 民族理解を目的としたエスノグラフィの中で行う行動観察では、より正しい理解が求められる
  • 価値提案を目的としたUXデザインの中で行う行動観察では、より発想の起点になることが求められる

4. まとめ:潜在ニーズの探索には行動観察を

行動観察は、ユーザーの潜在ニーズを捉えるのに非常に有用なアプローチの一つです。問いの探索、答えの探索のいずれにも使える汎用性の高い手法として、貴社のUXデザインプロジェクトにも、取り入れてみてはいかがでしょうか。

行動観察をやってみたいと思った方はご相談に乗りますので、ぜひお問い合わせください。

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この記事を書いた人

喜多 竜二

えそら合同会社 代表社員/HCD-Net認定人間中心設計専門家

2009年にUXデザインコンサルティングを専門とする「えそら合同会社」を設立、これまでに新規事業をはじめとする100を超える事業を支援してきた。自身は行動観察をはじめとするエスノグラフィを専門とし、生活者に対する共感を出発点としたユニークなアイデア発想の場づくりや、UXデザインの組織導入に力を入れている。東京大学工学部卒業、シドニー工科大学大学院修了。

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